No.23、伽藍堂の
これで終わりにしよう。
「行ってきます。」
戸を開け朝の冷たい冷気とバトンタッチをし、私はまだ人の居ない大通りを歩く。
五分ほど歩き「リン」と風鈴が鳴りふと後ろを振り返る。
そこにあった、いや居たのは無則真名だった。
「最近良く会いますね。」
「いや?妾が其方と会うのは初めてのはずじゃが。」
口調がいつもと違う。それにいつもと少し見た目が違う。
目は黒黒と墨で白目が塗られたようだ。
「大きい黒目…あぁ、貴女が仮名さんですか。」
以前真名さんから特徴を聞いたが本当に目以外がそっくりだ。
「なんじゃ妾の事は知っておったか。ならいきなり本題に入っても平気じゃな。」
仮名さんは右手を地面に並行になるように上に持ち上げた。
ふあっと風で前髪が持ち上がる。
「カッカッカッカ、なんじゃ其方、きちんと取り戻しておったか!」
ここ最近不思議な事ばかり起こる。
この人達は本当に…
「私は私です。それ以上でもそれ以外でもない。」
私は回れ右をしてギルドへと向かう。
「待て。」
興味はないはずなのに足が勝手に止まる。
「あと三ヶ月じゃ、努努忘れる事勿れじゃ。」
真名さんと同じように彼女を徐々に認識できなくなる。
「…」
私が私であれるのはもう長く無いのだろう。
また人が居なくなった大通りを歩き城の門が開くのを待つ。
二十分程経っただろうか。コツコツと足音が近づいてくる。
「やぁ、凜。久しぶり。」
袴を着て少し長めの水色の髪を後ろで結んだ男性が話しかけてきた。
「綾命、随分早いね。」
それを言うなら君もだよ。そう言って彼は私の前に立つ。
「僕は少し君と話をしたくてね。」
ニコニコと笑っているように見えるが、どうやら普段は細目であのときはいつでも殺目を使えるように目を見開いていたそうだ。
「話って言うのは、試験のときの?」
「話が早くて助かるよ。少し注意喚起をしようと思ってね。」
注意喚起、そういうのなら再戦の申し込みでは無いのだろうか。
「僕の名指しは直接見た魔法陣を含める物や者に殺目を移植する能力だ。
君はもう見たかもしれないけど、神の恩恵である目を持つものは他にもいる。」
「棘さんの鑑定眼とか?」
今度は明確に微笑んでいたあの時とかなり印象が違う。
「そう、鑑定眼は真実の神、トュラーの恩恵。
直接見た物や者の真実を見抜く。
どんな神でも目の能力の発動条件は対象物を直接見ること
君は試験のとき涙を凍らせる事で殺目を防いだよね?」
あのときは事前に魔法陣を目で見て破壊する場面を見たから一か八かの賭けのつもりだったが。
「本来ならあの程度では殺目は防げない。先に氷が死ぬ、もとい破壊されるだけだ。
僕はあのとき、君を殺すつもりはなかった。だから殺目を使ったのはほんの一瞬だよ。そして涙を凍らせるというのも、あのときはいわば火事場の馬鹿力。あそこまで細かい魔力操作はとてもじゃないが人じゃできない。」
「つまり、何が言いたいの?」
細めた目を開き真っ直ぐこちらの目を見つめる。
「あのとき殺す気がなかったのは君の成長に期待していたからだ。
次に僕が君と一戦交えるときは、僕は君を殺すつもりだよ。だから、同じ手で対抗しようとして簡単に死なないでくれ。頼むよ。」
そう言い終わると同時に城の門が開く。
「凜、今日はパーティーでの任務か?」
「いえ、今日は個人的にです。ナイトさんがノートさんと任務に向かうそうなので。」
そっか。と興味を突然失ったように綾命は前に向き直った。
「じゃあ僕はこれで失礼するよ。」
皆会話を突然切るな。それか私の会話が下手くそなのだろうか。
結局一人になってしまった。
そのまま依頼が貼られている掲示板を眺めていると右隣に黒髪を短くまとめ、兎?の人形を抱えた女性が並んだ。
よく見ると髪の内側が赤くなっている。
外から見ると黒、髪を上げると赤に見える不思議な髪色だ。
目はかなり充血しており目元にはくまがある。
その目も左目は包帯が巻かれており片目しか見えない。
「バク、今日はどうしようか…」
独り言にしては自己完結していない。
見えない何かとでも話しているというのだろうか?
それとも人形に話しかけているのか。
どちらにしろメルヘンチックな人だ。
ちなみに何故右に並んでいるのに右目が見えているのか、
私が聞きたい、何故この人はさっきから私の方を見ているんだ!?
横目で見ているが怖いなんてものではない。
不意に女性が目線を私から外した。
何をしているのか見えない(目を合わせたくない)からわからないが、ペラッという音から任務内容が書かれた紙を取ったのだろう。チラッと見るとローブを着ていて見えなかった手首が見えた。血が滲んだ包帯が巻いてある。
私も早くできるものを探さないと。
しかし困ったものだ。
私はまだ入ったばかりのため、ランクは一番下のFだ。
個人のランクとパーティーのランクは別でつけられている。
私のランクでは薬草集めや臨時パーティーでの荷物持ちくらいしかできることはない。対象ランクという制度のせいだ。
同じランク、もしくは一つ上の任務以上は受理されない。
ギルドに任務発行を頼めば自分が参加する形でランクは関係なくなるが、報酬用の金がかかる。
それに、私には延々雪林に用がある。
なんとかして最低でもDランクにはならないと、延々雪林へ行く許可はでない。
そんな事を考えEランクの高難易度任務を探していると、
「ねぇ凜。契約を結ばない?」
突然さっきの女性が話しかけてきた。
「えっと…何で私の名前を?」
会ったことがあるとは到底思えない。
「あれ?忘れちゃった?」
「すみません、三年以上前に会った方でしたら理由あって」
「いやだな、つい最近会ったじゃん…」
悲しそうな顔をされても反応に困る。
「私だよ、遥夏って言うんだけど、もう忘れちゃった?」
あぁそうだ遥夏さんだよく見れば面影が…
「え?」
「はぁ、なるほど。研究で自分の髪の毛を使用したと。」
「どっちかって言うと、使うために伸ばしていたからね。」
意外といえば意外だが、たしかに短いのも似合っている。
「で、契約を結ぼうって提案してんだけど、返事はどうなの?」
契約、互いの同意、または神の力によって作られる共通のルール。破った場合の罰とルールは双方共に守る義務が生じる。代表的な契約は精霊魔法を使うための霊授契約、奴隷契約、神の目だ。
また奴隷契約はかなり特殊で人権を剥奪されたものには拒否権なく結ばれる。綾命が五年タダ働きさせられたのは夏の国国王春間輪回との奴隷契約が結ばれたからだ。
「内容はどうなるのでしょうか?」
待ってましたと言わんばかりにニッコリと笑みを浮かべる。
「私と君で臨時パーティーを作る。私は君に君より高いランクの任務を、君は私に君の髪の毛を渡す。」
「遥夏さんのランクは?」
「私はA。」
たしかにそれは私にとってかなり大きい。
臨時パーティーは正規のパーティーと違い、パーティーの評価じゃなくメンバーのランクの平均を求めるやり方になる。
Aランクの遥夏さんと組めばパーティーのランクはD〜Cになる。これなら私がランクを上げなくても延々雪林に入ることができる。
「これならわざわざ契約を結ぶ必要はないのでは?」
「ソんなカンたんに人を信じラれるワケガない…」
これは明らかに最近何か合ったやつだ。
「えっと…その…何か合ったんですか?」
「クスン…」
まるでお嬢様が自分と対等に接してくれる唯一の友人が引っ越しをしたかのような、そんな綺麗な涙だ。
「実はね…ずっとカモ、じゃなかった。気持ちの良い取引ができていた客が突然適切な、じゃなくて。いつもより高い値段をふっかけてきて、あいつはバカだと思っていたのに急に頭使い始めて。」
脳トロが。という小さな恨みは聞かなかったことにしよう。
そしてあの人。本当に棘さんを利用して遥夏さんに交渉しにいったのか。
たしかにね、うんうんわかるよ。
「じゃあ悪いの貴女じゃないですか!」
人の少ない城の内部に「ですか!」「ですか!」という言葉が普段出さない声量によって木霊した。
「そうだ凜。先に言っておくけど、私に戦闘を任せないでね。この契約は君の能力を踏まえたうえで決断しているんだ。」
そろそろ目的地につくというときになんてことを言い出すんだ。
「でも、私よりAランクの遥夏さんの方が強いのは明確なのでは?」
「きちんと教えとけよ、脳トロが…」
「何か言いました?」
あれ?もしかしなくてもこの人本気で怒っているのか?
「団員のランクってのは単純に強さを表すものじゃない。
防衛団が騎士団と冒険者ギルドを合併したものっていうのは知ってるよね?」
「はい、ノートさんからではありませんでしたが。」
そういえば、この人は私が学園に通っていなかった事を知っているのだろうか?
私の無知に違和感を覚えていないのが不思議だ。
「団員のランクって言うものは、その人の強さじゃなく期待と貢献度だよ。私の場合は少し特殊な魔法に期待されてるだけ。」
「たしか、細かい魔力操作が必要な魔法が使えないんでしたっけ?」
初めて遥夏さんの店に行ったとき、棘さんから聞いた話だ。
「私は魔法陣が作れないんだ。
もっと正確に言えば私には魔力回路が無い。」
魔力回路、世界を作る要素マナを通すことでその人特有の魔力を練ることができる。
「じゃあ無属性か魔術しか使えない、ということですか?」
「加えて、少し特殊な魔法。私にはこれしかできない。
そのくせに輪回は私の力を随分気に入っている。」
「でも、魔力回路が無いということは…」
「うん、この包帯はそういうこと。」
私はそれ以上彼女に反対する気にはなれなかった。
陽属性とは、光、神、治療等を含む魔力の属性。
この世界の医療はほぼ全てこの治療の魔力に頼っている。
魔力回路に治療の魔力を流し逆転させる。
その為、魔力回路が無い遥夏さんは怪我を負っても自分で治すしか無いのだ。
「でも、魔力回路回路が無いのに腕は動いてますよね?」
「魔力回路が外付けの器官の証明になるのかな?少なくとも、魔力回路は生きることのみには必要はないみたいよ。」
魔力回路とは心臓から利き腕にかけて繋がっている血管だ。
血は流れているみたいだが、専門家では無いからわからないな。
土や草を踏みしめる音は気づかぬ間に霜が砕ける音に変わっていた。
下を見れば既に雪が混じっている。
「見えてきたね、戦闘の準備はできてる?」
私は刀を軽く抜き、刀身に映る自分と目を合わせる。
「大丈夫です、行きましょう。」
二人の影は木々に混ざり、
足音は木の葉のざわめきと風の音に掻き消される。
ザクザク、ギュッギュッと雪を押しつぶし氷の道を作る。
「で、君はここに何しに来たの?」
寒い中三十分弱走り続けているが息が上がっていない。
伊達にAランクをやっていないということだろう。
「……貴女に言うつもりはありません。
勿論、手伝って貰うつもりも。」
「悲しい事を言うね。呪うよ?」
さらっと怖いことを言わないでくれ、この人は見た目的に五寸釘とか藁人形とか持ってそうで怖い。
「っ!」
足にブレーキをかけ雪を削りながら失速する。
「どうかした?」
流石、反応も早い。私より早く完全に速度を失っていた。
「居ました、目的の奴です。」
「その言い方的に、相手はあの魔族?」
できればこの件に他の人を巻き込みたくはない。
「遥夏さん、少し離れてくださ」
「何用だ?人の子よ。」
ゾワッとする感覚が背中から巡り全身の毛を引っ張る。
振り向くと一体の魔族がこちらを覗いていた。
「遥夏さん、」
顎はがくがく震え呂律が回っていない。
「凜、あれは君じゃ少し厳しいね。」
「でも!」
遥夏さんの方に近づこうとするとあと数ミリで顔が切り刻まれるという場所へと斬撃が飛んだ。
「予を無視するか?下等な人の子よ。」
「舞十技九番龍の舞、濁龍!」
木の間を縫いながら敵に近づく。
「頭!」
背後に回ったところで肩の上に鞘を置きそのまま斜めに回転しながら高速で刀を抜く。
反応できていない、いける!
「契約、予への攻撃を禁止する。」
そう呟くと同時、刀は敵の胴体に対角線を引くように切り裂いた。
「!?」
ように思えた。実際は敵に傷は一切ついていない。
それどころか刀身には血すらついていない。
「死ね。」
キンッと音がなり刀で受け入れなかった衝撃でそのまま後方へと飛ばされてしまう。
何をしたんだ?
契約、まさかとは思うが。
「そこの女、お前は良いのか?」
まずい、このままでは遥夏さんがやられる!
「言い残すことは無いみたいだな。」
右手の人差し指を振りまた斬撃を飛ばす。
地面をえぐり、空気をかき分けながら遥夏さんの方へと着実に伸び、あとコンマ数秒というところで、彼女は唐突に手に持っていた人形を前に掲げた。
「バク、お願い。」
突如人形の口が大きく開きジャキンと音も立てて斬撃を飲み込んだ。
「第一式呪術式魔法。バク、吐き出し。」
再度人形の口が大きく開き、魔族へと斬撃が飛ぶ。
こちらも再度、敵の肩から腰へと線を引くが、
「実に愚かだ。」
やはり直ぐに傷が消えている。
「黒巣」
ぶぁっと黒い靄が発生し瞬く間に雪林は闇に覆われた。
陰属性の第一階梯魔法だが、本来ここまで大きな闇が生まれることはない。
即座に刀を腰にさし直し、居合を展開する。
動いていない?それも二人共だ。
まずは遥夏さんと合流すべきか、それとも陽属性の魔法で対抗すべきなのか。
少なくとも、一回は攻撃の機会を作る必要がある。
「舞十技三番雷の舞、迅雷。」
股の下を潜れる程に低く体を倒し直進する。
幸いにも直ぐ近くには木が無い為最速で遥夏さんの場所に辿り着けそうだが。
そうもいかないらしい。
「ブンッ」という音と共に空気が割かれて中心へと巻き込まれる感覚と殺気が進行方向へと伸びる。
「プシッ」という音をたて、腕から血が吹き出した。
「痛っ!」
勢いのまま雪を攫いながら転がり減速する。
どうも相手の攻撃は消えないみたいだ。
ジクジクと果実が熟す様に柔らかく変色し、うずいている。
「まだ死を受け入れないのか?」
魔族はそう問いかける。
死ぬつもりは毛頭無いが、勝てる気配が無い。
ここは逃げるのが一番だが、最悪な状況だ。
暗闇のせいで遥夏さんとコミュニケーションが取れない。
「沈黙は敵対と見なそう。」
急激に闇は取り払われ雪に反射する眩い光が瞳孔を縮ませる。
取り払われた闇は魔族の右手の指へと集まり渦を巻く。
見ているだけでその中に引き込まれてしまいそうな程黒黒しく、魅惑的な死を感じさせる物だった。
「黒転、〉引〈。」
よく見ると足元には既に50cm程の二本の線が引かれていた。
錯覚ではなく本当にあの暗闇を中心に引力が発生している。
塵芥はもちろん、雪や針葉樹の葉を根こそぎ奪い去り黒はより禍々しく育つ。
対角線状には遥夏さんが何かの準備をしているようだった。
「時は満ちた。」
その時丁度太陽が南天へとたどり着き、影は地面に垂直に突き刺さる。
「死ぬがよい、〈発〉。」
魔族の足元で円となった影は八方向に角を生やし、回転する。
「ドンッ」と重低音が心臓を揺らし視界にまた影が広がった。
「発光。」
反射的に発動した陽属性の魔法によって幾ばくか威力は殺したがそれでもこの衣服や刀を合わせて45kgあるかわからない弱々しい(せめてか弱いと言っておこうか)、体を雪林の外へと押しやるには十分過ぎる威力だった。
6m近く上から落下したが、着地は雪のおかげか感覚が麻痺したからか、痛みは感じなかった。
それよりも傷口が冷やされる方が歯を食いしばりたくなる様な痛みを感じた。
遥夏さんは、大丈夫だろうか。
暫くの間、私の意識は遠くへと行ってしまった。
「ほう、今の攻撃を持ってして無傷か。」
「片腕の欠損を無傷というのかは謎だけどね。」
遥夏の左手は肘の少し上の部分から血が滴り、雪に斑点を描いた。
(まだ大丈夫だ、それよりも凜が無事かどうかが心配だ。)
「だが、これで死ぬ。」
再び右手の人差し指を振りとどめを刺そうとした
が、しかし斬撃は飛んでこない。
驚いた様に何度も指を振りそのたびに指は虚空を切るのみで遥夏に傷を負わせる事はできない。
「自分の左腕があるか無いかもわからないの?」
ハッと気づき、魔族が自分の左腕を見るとそこには遥夏と同じ様に腕が無くなっていた。
「いつの間に!?」
魔族は急いで腕を拾い上げ魔力を流し腕をくっつけた。
プチッと音がなり、魔族が前を向くと右手に髪の毛が二本握られていた。
「糞っ!」
魔族がまた指を振り斬撃を飛ばした。
治療は時間を戻す為、再生する事はない。
当然欠損した部分があれば細胞は活性化され元通りになるが今この場に遥夏の腕らしきものは無かった。
この魔族は知り得ないが、遥夏には魔力回路がない。
右手は塞がった今、なすすべもなく遥夏は刻まれるはずだったのだ。
「ジャキンッ!」と音が響き左手に握られたバクこと、兎の様な人形が魔力の塊を吸い込んだ。
「何をした?貴様は本当に人間なのか?」
「第三式呪術式魔法。貴方の私への攻撃は貴方に反射され、貴方が貴方に対する回復は私へと移る。」
遥夏はバクの口から藁人形と金槌を取り出し、近くの木へ近づく。
持っていた髪は赤黒い魔力に覆われピンッと伸びている。
その髪を釘と見立て、金槌で藁人形を磔にした。
丁度胸の中心に髪を刺した途端、魔族の同じ部分から棘の様なものが飛び出る。
グシャリと音をたてるが、魔族や魔物には血が通っていない。正確には直ぐに蒸発してしまうため、そこまでグロテスクな見た目にはならなかった。
「このままいくと貴方は死ぬ、その分私も似たような代償を受ける。」
遥夏は魔族相手に交渉を始める。
「死にたくないなら契約を結びなさい。私と凜と貴方の不可侵条約、これでどう?」
魔族は少し考え、やがて答えを出した。
「凜というのか。あの小娘とは契約を結ぶつもりはない。」
グッと力を込め棘はより長く伸びる。
魔族の口から流れる血は外気によって固まることなく蒸発した。
「貴様も、死にたくは無いのだろう?」
今度は遥夏が推敲する事になる。
苦しそうに言葉を発した。
「分かった、私と貴方との不可侵条約。これでいい?」
「「両解。」」
契約の相互認識を認める魔法。
カチリという音がなり遥夏はルールに則り、お互いが干渉できない距離へと飛ばされた。
(左腕)
頭に届いたその言葉をトリガーに私の意識は覚醒した。
そうだ、あいつを。
ギアスを殺さないと。
また…
ふらふらと歩き骨折し、ぶらぶらと揺れる右腕にはしっかりと刀が握られていた。
「治療。」
体中の骨が動きくっつく音がする。
カタカタと顎の骨が動くのは、その影響か寒さか。
それとも怖いのか。
ザクザクと雪を踏みしめ、風が前髪を攫う。
ふあっとシャンプーの匂いがするが直ぐに血の匂いが漂ってきた。
じゃがいもみたいな鉄の匂い。
今日は、そうだな。ふかし芋でも食べようか。
空っぽになった目に人影が映る。
「やはり、生きていたか。」
やめてくれ。
「初めてお前を見たときに感じ取っていたのだ。」
まだ、私は私でありたい。
「お前となら、血が沸き立つ様な戦いができると!」
だから、
「人にこんな事を聞くのは初めてだ!」
やめてくれ。
「予の名前はギアス!」
それだけは…どうか
「お前、名前は?」
その瞬間何かが切れた気がした。
「鈴音。」
空いている左手の中指と親指を擦り、リィィィィンと音が弾けた。
「契約予への攻撃を禁止する!」
「鉤爪。」
辺り一面に大きな爪痕が残り、その中にギアスも巻き込まれた。
「やはり、六恩を持っていたか!」
何もなかった様にギアスはそう叫び斬撃を三回繰り出す。
「舞十技一番鳥の舞、荒鷹。」
目にも止まらぬ速さで素早く三本の斬撃を繰り出しギアスの斬撃と相殺する。
魔力がぶつかる事によって波動が発生し雪が舞い上がった。
ギアスが瞬きをし、次に目を開ける刹那。
刀を鞘に収め、大きく抜刀の構えを取る姿が写った。
「虚の太刀。」
音もなく刀を上に振り上げ空気が割かれる。
その真空となった間に素早く上から振り下ろし、
「見事だ…」
ギアスは二等分に切り裂かれた。
「教えてくれ、何故予の契約を無効化した?」
「魔法は魔力によって発動する。魔力やマナは空気と共に存在する。いわば、空気の無いところには魔法は使えない。」
「そうか、満足ゆく死に様だ。感謝しよう。」
冷たく吹く風は無くしたものを運び、また何か新しいものを攫っていった。
遠くでまた風鈴が鳴る。
いい感じに話が進んできました。
間を見つけてまた書き進めます。




