No.22、輪郭はぼやけて
繰り返し繰り返し
私は今日も
「鈴音!鈴音!鈴音!」
誰の声だ?
鈴音という言葉だけが頭に響く。
聞いたことがある声だ。でも知り合いにこんな声の人いたかな?
「いい加減に目を覚ませ!」
聴覚以外の感覚が無い。
私は今どこにいるんだ?
「頼む!〇〇〇が死ぬ前に!」
そろそろ耳障りだな。
あぁこのまま音も無くなって何も無い空間に居続けたい。
それに、今の私に何をしろと言うのだ。
☓☓☓さんは死んだ。
いや、私が殺したんだ。
お前だって分かってるんだろ?
結果が変わることはない。
親殺しも子殺しもどっちにしろお前は何もできない。
△△△の裏切りに気付けなかったのが失敗なんだ。
そのせいで今〇〇〇は死にそうになっている。
文句があるにしても私に言うのは御門違いだ。
もう良いだろう?
世界は繰り返すようにできている。
そういえば、やり残したことがあったな。
☓☓☓さん、私はあなたを
「愛しています。」
「何か言ったか?」
その声で私の意識は覚醒した。
「夢幻さん?」
「逆に私が何に見えているのか是非聞きたいところだな。」
「よく見る綺麗な人です。」
はぁーとため息をつき夢幻さんは愚痴をこぼし始める。
「全く、来るのが遅いと思ったらだ。
何故お前は道の真ん中で立ち止まっている?
不審者情報が入ったから様子を見に来たら、不審者から守ろうとした相手が不審者だった保護者の身になれ。」
通報されるほどの時間止まっていたのか…
「すみません、立ちながら寝てしまったみたいで。」
「嘘をつかなくて良い。」
「えっ?」
「大方、真名か仮名のせいだろうからな。」
仮名。以前に真名さんから話を聞いていたが、夢幻さんも認知していたのか。
「とりあえず、家に帰るぞ。」
「はい。」
意識が完全に戻った時に気づいたが、既に日が傾いている。
近くの家の明かりが少しずつ鮮明になってきていた。
隣を歩く夢幻さんは寄り添ってくるように私の歩幅に合わせて歩く。
普段からお面を被っているように表情の変わらない為今彼女が怒っているのか、それとも呆れているのか。私にはそれすら分からない。
「そうだ凜、今回はお前のギルドでの初めての仕事となったわけだが、どんな感触だった?」
それに対してこの人は私の不安を読み取ったように場を和ませようとしている。
「少し意外というのが率直な感想です。」
「意外?」
この人が疑問符を使っても怒っているようにしか見えなくて少し怖い。
「良い意味で、ですね。死を覚悟する相手だった餓狼やそれより強い魔物に自分が勝てたというのも。
他の人も当たり前に強かったこともです。」
私は今回に感じた事を素直に話すことにした。
「まぁ私と三年間修行したのだ。そのくらいになってもらわなければな。と、言いたいところだが。」
「だが?」
「お前が強くなったというのも勿論だが、あの時の餓狼が強かった。というのが一番大きいだろうな。」
個体値みたいなものでもあるのだろうか?
「ルナ、というものがあるんだ。」
「ルナ?初めて聞きました。」
「ノートから説明を受けているだろうが、世界から生まれる力をマナ、それを呼吸等で体内に取り込み、魔力回路を通すことで作る魔力。基本的に世界はこれを基本として創られている。」
魔物がマナから生まれてくるようにこの世界すらもマナからできているというのが最近の一般的な思想だ。
「ただ例外が有る。月詠という神はイレギュラーな存在なんだ。月の神、月詠であり、死の神、(憑く)黄泉でもある。」
黄泉、確か綾命の信仰してる神だ。
「月詠の象徴である月。その月が光を反射して光る時、同時にマナも反射しているんだ。そのマナをルナと呼ぶ。
ルナは通常のマナの推定五倍にまで濃度があがる。」
成る程、魔物は呼吸もしているが同時にマナを消費し続ける。その分マナをまた取り入れるからルナで満たされている夜は魔物が強い、ということか。
「でもそれなら人も同じくルナで強化されるんじゃないんですか?」
「あぁ、確かにルナは人も強化する。
しかしあの時のお前は魔法を使えなかった。その上、餓狼の体内の魔力はルナによって作られていた。あのときの餓狼は通常の五倍の強さということだ。」
実際に私は自分がどのくらい強くなったのかは分からない。
自分が強くなったと言われたらCランクの魔物を倒せるほどになったのだからそう納得してしまう。
あの時の餓狼達が強かったと言われたら今回の餓狼は弱かったように感じる。
成長の実感が無いと少し寂しいな。
「なぁ、凜。」
ふと夢幻さんが足を止め10日目の月のように夕日は彼女を包んでいた。
「お前は、これからどうしたい?」
不思議なことを聞いてきた。これからどうするか?
そんなもの最初から夢幻さんの剣術を継ぐということに…
何だ?また何か違和感だ。
「今は分からないか?」
やめてくれ、そう言ってくれたのは貴女のはずだ。
じゃあ私は何でギルドに入ったって言うんだ?
「もしだ、凜。お前が家賃を払うためなのだとしたら、私はお前にそんな理由で命をかけてほしくない。」
だから、私が戦う理由は…
「私は、貴女に」
それ以上は言葉に成らなかった。
その後私と夢幻さんがどんな話をしたか、いや話をしたのかも覚えていない。
その日はいつもより長い夢を見た。
世界は矛盾に満ち足りてる
畏怖の世界はきっとここだ。




