番外3、限りなく螺旋状
踊れおどれのへんてこ舞い。
遥か彼方の夏の国で鈴の音は
無くした幻想をノートにつなぎとめる。
殺めた人たちがまだ退かないかまだ退かないかと
死の灰に頭を垂れる。
夜風は万雷と旋律を輪唱させる。
音は止まらず風雅を極める。
I死するともと光の下でそうそう酔ひもせんと影を踏む。
星の航路に後来を託す。誰も咎めぬ数多の星達は時の流れのまにまに天を照らしあまつさえ作り話の黄泉へと繋がるとは気づかない。
神はやはり我々を見限ったのだ。
真意は戦の下にあり。
瘴気は雷に、氷期は光の柱に、隆起は黄泉に。
始まりの騎士は音を抜かれた。
騎士の魂は常に呼ばれ続ける。
呼応したのは
「はっ!」
またあの夢だ。しかしおかしい。私は夢幻さんの下へ向かおうとしていたはず。
「お前が寝てるなんて珍しいな。お疲れか?あと数分だし頑張ろうぜ。」
そこに居たのは灰頭紅蓮だった。
それだけではない。私が着ているのは和服ではなくギルドの入団試験で学園の卒業生が着ていた夏の国国立魔導学園の制服だ。それだけではない私は席に座って授業を受けている。
「皆さんもう習っていると思いますが、魔力には属性があります。これはマナを魔力回路に通す時に分類されますが、ではこの回路錬られるのは炎、水、風、土、氷、雷、陽、陰のどれか。そうだな、凛。」
あの特徴的なギザギザした回路は
「雷です。」
「そうだ。きちんと授業を聞いているようで何より。」
そこからは三年間の間で夢幻さんやノートさんから聞いた話ばかりだった。
「では、これで今日の授業は全て終了です。同好会に参加している人以外は真っ直ぐ帰るように。それでは。」
おそらくこのクラスの担任であろう片方しかレンズのついていない全体的に見た目を整えた男性は教室を出ていった。
何名か帰り始める頃に隣りに座っている紅蓮が話しかけてきた。
「凛、どうする?久しぶりにバトラでも行くか?」
バトラ…聞いたことがない。これが夢なのか、それとも今までが夢だったのか。
「まぁーた物騒な所に誘ってる。凛、ナイト先輩がオススメのカフェ教えてくれるって言ってるんだけど、一緒にいかない?」
もう一人会話に加わった。誰かと思って声の方向を振り向くと。
「円花?」
穂叢円花同じ日にギルドの入団試験に参加していた少女。
紅蓮と対立していたように見えたが。
「何?私の顔になにかついてる?」
「いや、何でもない。まだ寝ぼけてるみたい。」
頭の中を整理させようとしていると紅蓮が突然笑った。
「どうしたんだよ凛、内股になってるぞ。」
カッカッカと特徴的な笑い声と共に体を震わせている。
内股?そういえばなんか下半身に違和感が…
「ちょっと厠行ってくる。」
厠に向かう途中に何故か視線を多く感じる。
興味や好意ではない、もっと黒い何かだ。
厠、とは言っているものの夢幻さんの家も何故かここだけは最新のものだったので、もうトイレと呼ばせてもらおう。
トイレの個室に入り用を済ませることにする。
結果から言うと、ついていた。ナニがとは言わない。
手を洗おうと鏡の前に立つと見た目も変わっている事が分かった。
髪は水色で無造作ヘアーとでも言うのか、ぱっとしない。
そうだアイシスさんの髪に似ている。
そんなことを考えながら鏡を見ていると、時間がかかってしまったからか紅蓮が様子を見に来たようだ。
「大丈夫か?今日調子悪そうだけど。」
「大丈夫だ…」
紅蓮?何かおかしい、大切な事を見落としている気がする。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない。帰ろう。」
廊下に出ると円花が待っていた…だけでは無かった。
男子生徒2名が円花に話しかけている。
「ねぇ良いじゃん一時間で良いから俺等に付き合ってよ。」
「だから私は今日用事あるって…」
「それってあれだろ?凛と紅蓮だろ?」
「まじかよ!まだあいつらとつるんでるの?あんな落ちこぼれ共はほっといて俺等に乗り換えようぜ?」
どうやらあの二人の俺達二人に対する評価はかなり低いみたいだ。おそらくトイレに行く前の視線もそれが原因だろう。
「設置型条件魔法、」
俺が名指しを使おうと魔法陣を展開したとき
「おい凛、不用意な攻撃魔法の使用は法律で、俺等のクラスの無断な校内での魔法の使用は校則で禁止されてることを忘れたのか?」
「…そうだな。すまない。」
円花は10分程二人と話しこちらの方へと歩み始めた。
「ごめん、今日はあいつらの相手することになったから。」
「気にすんなよ、別に毎日遊ぼうなんて約束してねぇし。」
「あんたにゃ言ってないわよ。」
やはり試験で見た二人とは思えない。
「凛、また明日ね。」
「あぁ、また明日。」
…やはり何か見落としている気がする。この違和感の正体は何だろうか。
そんな私の沈黙を破ったのは紅蓮からだった。
「どうするよ?これから。やっぱバトラ行くか?俺は結構さっきのでストレス溜まってるんだけど。」
今日は用事は無い、というか知らないが会話から察するに俺の友人は紅蓮と円花だけなのだろう。
「そうだな、そうしよう。」
移動する道のりに何故か心当たりがある。
その疑問は到着する時に正確には目的地の近くに来たときの心臓を揺らされるような声量によって解消された。
バトラとは旧異種族闘技場での試合のことだった。
これもまた正しくない。
正確には旧ではなく異種族闘技場らしい。
何故試験会場と同じ場所にある建物が旧となっているのか。
考えられるとすればこれが何年か前の世界という可能性だ。
しかしこれはありえない。
今俺は高等部の生徒だ。
俺は夢幻さんに拾われた時が推定14歳だった。
そこからの3年間は夢幻さんとノートさんと過ごしている。
だから俺が高等部に通うなんてことはありえない。
もう一つ考えられることは…
「おい、どうした?早くしねぇと試合始まっちまうぞ。」
「あぁすまない。」
席の番号が記されたチケットを握り異種族闘技場の中に入る。
男達のむさ苦しい声が近づいてきた。
試合の内容はかなり白熱するものだった。
褐色肌の女性の人狼とオークの戦いだった。
勿論おっさんが望むような展開も起こりこれは円花を連れてこなくて正解だったと思いながら…
「いやぁ、白熱した試合だったな!」
無邪気な笑みを浮かべている。
多分紅蓮は純粋に観戦を楽しんでいたのだろう。
「そうだな。」
「相変わらず顔に出さない奴だな。」
「そうだっけ?」
「そうだよ。だからお前が楽しそうにしてるのを見るのが好きなんだ。」
天然でこういうことを言うのだな。場所を間違えなければ異性にモテそうだなと思わされる。
「うっし、次はどうする?飯でも食うか?」
「あぁ。」
「?」怪しそうな目でこちらを見つめてくる。
「少し待ってくれ…」
俺は体を前に倒し、近くのおっさん共と同じく治まるのを待つことにした。
夕陽が傾き始め俺と紅蓮は違う道を今日初めて歩くことになる。
「じゃあな、凛!また明日!」
「あぁまた明日。」
紅蓮はニカッと笑って夕陽に消えていく。
振り返り家を目指して歩き始める。
何かおかしい何かおかしいそう思い続けるが何がおかしいのか分からない。
「俺は一体…」
そういえば、俺は今どこに向かって居るんだ?
そう考えた瞬間大きな不安にかられ走り始める。
昼に食ったフィッシュバーガーが腹の中で暴れる。
脇腹を抑え無意識のうちに足を止めたのは
空き地だった。そこそこ大きい。
周りに家は殆どないそんな場所に俺は足を止めた。
「分からない、何故俺はこんな場所に?」
頭が痛い。視界が反時計回りに俺の身体が時計回りに回る感覚が頭を狂わす。
何かここに大切なものが、人が居たはずなのだ。
昼前には覚えていた。
「ハァハァハァハァ…」
呼吸が早い。心臓は秒針の3倍近い速度で振動する。
「オェッ」
「ビチャビチャッ」とさっきまで腹の中で暴れたものは喉を焼く感覚とともに外に流された。
「おい君、大丈夫かい?」
見たことのある金髪の女性が話しかけてきた。
「っ!ノートさん…」
「ん?私の事知ってるの?」
やはりこの世界では俺はノートさんに会っていないのか。
「あぁなるほど、その制服私の後輩か。」
相変わらずYシャツにローブを羽織ってショートパンツを履いている。
ノートさんが居るならきっと夢幻さんも…
夢幻…そうだ夢幻さんを探していたんだ!
この空き地も夢幻さんの家があった場所だ。
「ノートさん、夢幻さんは今何処に?」
「夢幻?知らない人だから分からないにぁ。」
やはりだ、ここは数年前の世界じゃない。
パラレルワールドの類だ。
「ようがないなら私もう行くよ。」
彼女はそう言い渡し歩いていってしまった。
「どうなってんだこれ。俺は一体…」
俺?そうだ違和感の正体はこれだ!
いつの間にか一人称が私から俺に変わっている。
それに初めて違和感を感じたときもそうだ。
俺はあの時まだ自分が男だという自覚は無かった。
それなのに俺は無意識のうちに男子トイレに入った。
つまり、
「私が記憶を失わず、なおかつ男だった世界。」
それでも夢幻さんが存在しない説明にはならない。
幾つものパラレルワールドが重なっているのか?
そう考えている時にいつか感じたゾワっとする感覚が右耳から走る。
「なんやせっかく戻してあげたんに、お気にめさんかったんか?」
今度は左を振り向くと、無則真名がそこに居た。
「カッカッカ、ちゃんと学習してるみたいやな。」
「貴女がこれを?」
笑いを抑え彼女は応答する。
「そうやよ。あぁでも、うちのせいでじゃなくてうちのお陰で、やけどな?」
「何でこんなことを…」
「自分がそれを望んだ…あぁいや正確にはそう望むに違いないと思ったからやよ。」
私がそんなことを?
「なぁ自分はどうしたいんや?」
「どうしたい?とは。」
「これから自分は辛いことばかり起こる。
これは、うちの予想やのうて起こるべき事実。
決められた運命への過程は無数に君の周囲を蝕み続ける。これはその八つ当たりの一つの世界。」
さだめ?八つ当たり?何を言ってるんだ。
「人は意味を持って生まれてこない。
それでも生まれてくる責任は全員が持ってる。
理不尽だと感じるからこそ、人は皆死ぬ時までに生まれてきた理由を探したがる。」
この人は何を言ってるんだ、意味?責任?理由?
「自分には生まれてきた意味は無くても理由がある。
自分には生まれてきた責任があっても責務はない。
自分の行動一つ一つは誰かへの八つ当たりになることを努々忘れちゃあかんよ。」
一体何が言いたいんだ…
「最後に問おてもええか?」
「何ですか…」
「自分、名前は?」
「私は…」
「うちはいつか自分のことを名前で読んでみたいんや。
せやから、□□ね。」
そこから私の意識は消えた。
今回は割と物語の核になる話になりました。
もしかしたら次回から人によっては少し苦手な展開になるかもしれません。
あと時系列がぐちゃぐちゃになる可能性があります。
それでは。(ここまで読んでくれる人が未だに居ない事実に泣くしかない。)




