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君は今日から家族だ!  作者: 秋元智也
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96話

体育の授業では初めて一本取ったのが嬉しかった。


「亮太っ、僕も少しは強く慣れてるって事かな?」

「そうですね〜、先生もわざと投げられたっぽかったので、それさえ

 なければそうかもしれないですね〜、まずは俺から一本取るのが大

 事ですね〜」


あっさり言ってくれるがそれが一番難しい。

もちろん、亮太以外にも組員にも手合わせしてもらっている。

他に格闘の知識も入れているが、全く勝てない。


いや、正式には勝てそうになり始めると別の講師に変わると言った方

が正しいのかもしれない。

亮太にとって、静雅はいつまで経っても自分は弱いのだからという錯

覚を植え付けておきたかったのだ。

下手に自信をつけると自ら渦中に飛び込む可能性があるからだった。


誰よりも優しいからこそ、傷つきやすく脆い。

だからこそ、亮太はいつでも強くあり続けなければならなかった。


「まだまだ弱いんですから…」

「分かってるよ……」


どんな状況でも亮太の役目は一つだけだった。

静雅を守ること。

誰にも渡さないし、託したくない。

自分だけの使命なのだ。

もう少し、もう少しで卒業だ。

それまでにやれる事はやっておく、それがどんな事であろうと…


秋めいてきた季節の変わり目。

今日も病院へと寄ってから帰るところだった。

最近やっとクラスの男子から少なからず挨拶や、多少の会話をする程

度には改善が見られるようになった。


亮太ほどべったりとはないが、それでも普通程度にはなってきていた。

伊東くんがいた時のようなあの時に似ている雰囲気で少し気分が浮上

する程度だった。


「荒川くん!待って、今日もお見舞いでしょ?ついでにちょっとコレを

 病室に持っていってくれる?」

「はい…いいですけど」

「おい、人をこき使う気か?」


亮太は反論するが、静雅は心良く受け入れた。

いつも見てくれている看護師さんなのだから文句はない。


「亮太っ!」

「でも、それはあの女の仕事でしょ?」

「いいの、僕がいいって言ってるんだから」

「…」


ぶつぶつと文句を言っていたがしばらくして黙った。

病室についてからいつもと違う事に気づいた。


いつもならカーテンが閉まっているのだが、今日は半分空いている。

そしてカーテンが揺れている事は窓が空いているのだろう。


「誰だよ、窓開けたの…」


窓際に行くと、ベッドの上の伊東と目があったのだった。


「いと…う……くん…」

「……っ…」


なにか言いたげだったがずっと寝たきりだったせいでうまく話せな

いらしい。

静雅は立ち尽くすと、自然と涙が溢れた。

このまま目覚めなかったらどうしようとずっと思っていたから、起

きた事がすっごく嬉しかった。


それは伊東も同じだったのだろう。

微笑むだけで何を言いたいか分かった気がした。

側にきた亮太によって抱きしめられると、堪えていた涙が溢れてきて

止まらなかった。

亮太にしがみつきながら泣きついてしまった。


恥ずかしいと思いながらも少し落ち着くまで病室にいる事になった。


「よかったですね」

「何言ってんだよ、よかったに決まってるだろ…伊東くんが僕のせい

 で死ぬんじゃないかって思うと不安だったんだ…」

「違います…貴方のせいじゃない。そうでしょ?」


返事を促すと頷いて見せた。

もしかしたら亮太がそう言わせているだけかもとも思ったが、今は

考えるのをやめて意識が戻った事に感謝をした。


本当は今日の朝に目が覚めて、検査を受けていたらしい。

それは亮太の方にも連絡がいっていたので、知っていたが、あえて

言わなかった。


亮太にとってはどうでもいい事だったからだ。

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