93話
「では、4人でグループ作ってください、それでは実験器具を
配るので各自で始めてください」
先生の言葉に各自がグループを組み始めた。
静雅と一緒のやりたがる人など滅多にいない。
ヤクザ疑惑は訂正されたものの、やっぱり心では嫌厭している
からだった。
「先生、二人でもいいですか?」
「誰か一緒にやる人いないの?」
「そうみたいです。二人でも平気なので…」
「俺なら静雅くんと一緒なら、完璧に出来る自身あります!」
そこへさっき亮太に睨まれた女子が手を挙げた。
「私達も二人です……だから……」
「そうね、一緒にやりなさい!いいわね?仲良くやるのよ!」
「チッ…」
小さく舌打ちしたのが聞こえると、さっきの女子はビクッと震
えたのを見逃さなかった。
「やめればいいのに………亮太、行こう」
「うん、静雅くんが誘ってくれるのは嬉しいんですが、邪魔者が
いないともっとよかったかな」
「授業に集中しろよ」
「はいはい。」
成績ならこの二人に敵う人はいないだろう。
いくら不正で成績取ったのだろうと噂されても事実、実力でなの
で、授業で困る事はない。
テキパキと実験器具を組み立てるとサクサクとやっていく。
本当に手伝いを必要としないし、相談する事もない。
言われた通りに実験をすると、変わった様子をゆっくりと見なが
ら書き留めていく。
「あの…どうしてこうなるの?」
「それ…教科書見てる?」
「えっ…書いてあったっけ……」
戸惑うような女子の視線にため息が漏れる。
あんなに敵視した視線を向けていた相手に聞くのかと。
「静雅くん、いいよ答えなくて。嫌がらせしてるだけでしょ?女
なら優しくしてもらうのが当たり前だと思っているようなクズ
に教えても無駄だよ。」
「…!」
亮太の言葉にはさっきまで批判していた女子に対する抗議の意味
も含まれていた。
それ以上聞くなと言うように睨みつけると、黙ってしまう。
いや、黙るしかないのだろう。
自分から悪口を言っておいて、今度はわからない事があるから教
えてくれとはどの口が言うのだろう。
亮太と一緒のグループなれて浮かれるどころか、逆に怒らせたの
は自業自得だろう。
その上で静雅に聞こうとするなど許すはずがなかった。
実験は順調に進み、結果をまとめていく。
わかりやすくまとめるとそろそろ器具を片付けたいと思い始める。
「書けたなら片付けても?」
「静雅くん、聞く必要ある?十分時間はあっただろ?もういいよ
な?」
いつもの女子に対する態度ではない。
亮太はあきらかに敵視している。
泣きそうな顔で頷くと2人の女子は自分たちの書いたノートをお互
い見せ合っていた。
静雅は実験結果をまとめたノートを開いたまま席を立った。
「亮太、手伝ってくれるんだろ?」
「もちろん」
亮太を振り返ると嬉しそうについてくる。
器具を持つとそのまま運んでいく。
残された女子達はこっそりノートを眺めて書き写していたのは分か
っていたが指摘はしなかった。
「静雅くん、書き写してるけどやめさせようか?」
「いや…いいよ」
「あんな奴に……」
「亮太…もういい」
「…」
何か言いたげだったが、ただ素直に従った。
こう言うところはまるで忠犬のようだった。
過ぎた野心さえ抱かなければ、いい友人でいられるのに…
いっそ、ヤクザとしての高い地位とでも言ってくれれば、すぐに
でも明け渡してやるのに…
「今日も寄ってきますか?」
「あぁ…そうだな…」
今日の帰りも寄って行こう。
大事な友人に会いに。
いつ目を覚ますかさえもわからない友人だが、それでもいつでも
差別なく見る事のできる、大事な友人なのだから。




