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君は今日から家族だ!  作者: 秋元智也
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88話

黒板を綺麗にし終わると他の生徒が教室の机を戻し始める。

一緒になって履き終わった場所から戻していく。


「あとはゴミ捨てかぁ〜寒いんだよね〜」

「いいよ、僕が持っていくから。先に帰ってていいよ」

「マジで?荒川くん、ありがとう〜、前にデマが流れた時すっごく

 怖く感じたけど、荒川くんってあんまり話さないだけで普通の男

 の子だもんね〜!私勘違いしてたかもー」


デマとはこの前にヤクザ騒ぎの事だろう。

あながち間違ってはいないのだが、それは訂正しないでおこう。


「いいよ、僕なら平気だし」

「マジ感謝!じゃ〜今度一緒に遊びに行こうね!」

「あははっ……う、うん」

「あ、雅くんを誘ってなんて言わないから安心して!」


言いたい事を察したのか、先に言われてしまった。

静雅をダシに使う女子が多いせいで誤解することが多いのだ。


「じゃ〜またね!」


彼女はそうではないのだろうか?

まぁ、どっちでもいい。

きっと、亮太が二人っきりにはしないのだろうから…


ゴミ箱を持つ校舎裏の焼却炉まできた。

ここは人通りが少なく人目にも付きにくい。

そして何より裏門から近く不審者が入りやすい為、亮太からは一人

では行くなと何度も言われていた。


だが、その亮太も今は忙しそうで、わざわざゴミ捨ての為に呼び出

すのも忍びないと思い一人できていた。


ゴミを捨て終わると帰ろうと振り返ったところで見知った顔がこち

らを睨みつけていた。


「静雅ぉ〜お前何をやりやがったぁ〜」


唸るような声に、殺気が籠る。

手に持っているモノがキラリと光る。


刃渡り30cmはありそうな包丁だった。

石田健大。

同じ施設出の一学年上になるはずだった。

この前自主退学したと聞いている。


「健大………どうして?」

「お前がやったんだろ?俺に嫉妬したのか?それとも、俺への当て

 つけか?」


静雅には何の事かわからない。

学校側とどう言った経緯で話し合いがなされたかなど知るよしもな

いからどうしようもないのだった。


「何を言ってるかわからないんだけど…僕は何も……」

「絶対に許さない……俺の人生を返せ!お前さえいなければもっと

 順調だったんだ!お前さえ……死んで詫びろよ!」


真っ直ぐに向かってくるのを避けるのが精一杯だった。

静雅が手に持っているのはゴミ箱一つ。

相手は刃物だ。


相手のならない。

避けてかわすが、健大はよろめく程度で、再び向かってくる。

こんな事を続けても意味がない。

早く人を呼ばなければ…

焦ってもしょうがない。


誰か来てくれれば…せめて他に生徒がいてくれたら…


そんな願いはすぐに叶う事となった。

他のクラスの生徒がたまたまゴミ捨てにきたのだった。


「おい!何をやって………え、石田…健大……」

「早く先生を!」

「分かった!」


ゴミを投げ捨てると踵を返して走り去っていく。

だが、健大はそんな生徒には見向きもしなかった。


目の前にいる静雅だけしか見えていないのだ。

あきらかに異常としか思えない。

護身術として何度か稽古を受けてはいたが、亮太のようには

できない。


静雅ができるのは唯一相手の動きを見て避け続ける程度だっ

た。

反撃ができるほどの力もないし、腕もない。

避け続ける体力だけはと毎日筋トレだけは欠かさずやってい

たのだった。


先生を連れて戻ってきた生徒に感謝しながら、先生達によっ

て健大は拘束されたのだった。


「離せっ!こいつだけは、こいつだけは許さね〜!絶対に殺

 してやる!」

「落ち着け!石田、お前はもうここの生徒じゃないんだ!こ

 れ以上暴れると警察を呼ぶからな!」

「違う!こいつにハメられたんだ!こいつが全て仕組んだん

 だ!」


ずっと叫び続けるが、呆れたような顔で警察へと電話をかけ

た。

捕まって大人しくなって項垂れているうちに静雅はすぐに教

室へと戻った。

図書室へと寄ると本を返して保健室へと足をむけた時、亮太

が戻ってきていた。


「なんで一人でいるんですか!」

「一人って言っても学校だぞ?今から保健室へ行くし…」

「なら、送って行きますよ」

「過保護すぎだって…」

「過保護でいいんです。本当に貴方は……」


外が騒がしくなっていた。窓を開けると先生達が血眼になっ

て走っていた。


「おい、探せ!校舎内に逃げ込んだはずだ!」

「先生〜何があったんです?」

「おぉ、荒川!無事だったか!よかった、さっき石田がいき

 なり走り出してな〜お前は早く帰りなさい」

「石田健大………」


亮太の目が睨みつけるように細くなる。


「分かりました。すぐに帰ります」

「静雅くん、俺から離れないで下さい」

「あぁ…分かってる」


亮太のそばが一番安全なのだ。


「今警察を呼んだから他の生徒も避難させないと…」

「そう…ですね」

「お前らも気をつけるんだぞ」

「はい」


石田健大の狙いは静雅なのだ。

それ以外を傷つけるとは思えなかった。

亮太はまず和泉先生に電話をして保健室に行くように指示した。

あとは静雅を預けているうちに健大を捕獲すればいい。

そう思っていたのだが、予想外のことが起きていたのだった。


「和泉先生?ちょっと大事な事が……」

「知ってますよ。石田健大でしょ?今確保したところですよ…」

「何かあったのか?」

「何かどころじゃないです。今荒川くんはそばにいますか?なら、

 こちらには来ないで下さい。そうですね〜安全な場所にいてく

 ださい」

「…分かった………あぁ、……うん」

「何だって?亮太?」

「静雅くん、ちょっとこっちへ」


静雅の手を引くと授業で使っている化学準備室へと入っていく。

誰もいないせいかガランとしていた。


中から鍵をかけると近くのソファー腰掛けた。


「亮太っ、何があったんだよ!保健室に行くんじゃないのか?」

「いや、今はここにいる方がいい。すぐに捕まって事件は解決

 する、だから今はここで……」


亮太がいい終わる前に外からサイレンの音が鳴り響いてきた。

警察じゃない。

これは救急車だった。


何があったのかわからない。

窓のそばに身を寄せるとカーテンから見える校庭を眺めた。


白衣を着た先生が手を振っている。

和泉先生だろう。

そして担架を持った救急隊員が駆け足で向かう。


運ばれていく生徒は布を被せてあって誰か遠目ではわからない。

そのままサイレンを鳴らして救急車が去っていく。

和泉先生の白衣が風に靡いている、一瞬こちらを振り向くと真っ

赤に染まって見えたのだった。




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