85話
数日後には予想外の展開になっていた。
あの教室に来た先輩方が何を思ったのか石田健大をに迫ったと
いうものだった。
そして施設での毎年撮る記念写真を持っていたという。
それはちょうど静雅が施設を出てからのもので自分が写ってい
ない事にホッとしたのだった。
「静雅くんが乗ったやつを渡すわけないでしょ?」
「亮太、お前か!」
「そうですよ?静雅くんを傷つけようとする者を放置するわけ
ないでしょ?」
さも当たり前のように言ってのけるこの男はそれ以上に爆弾発
言までかましてきた。
「それと一緒に彼の親の経歴も教えておきましたよ」
「施設育ちなのに、親が分かったの?」
伊東が興味津々で聞くと、ちょうど和泉先生が帰ってきたとこ
ろだった。
「あまり下世話なことは話さないでくださいね」
「それを調べてきたのはあんただろ?和泉せんせー?」
「雅くん?それ以上言うなら追い出しますよ?」
「俺もここの生徒なんだけど?」
「健康な生徒は出て行ってくださいね?」
二人が睨み合う中で、伊東はさっきの言葉の先が気になってい
た。
「それでどうだったの?親の素性って?何か出てきたの?」
「凄い食いつくね…」
「だって、あんなに嫌がらせするくらいだもん、何かあったら
面白いじゃん」
「そう…かな?」
「そうだよ!雅くん、どうなの?」
「そのうちわかるよ。彼らも言いふらさないわけにはいかない
だろうしね」
意味ありげに言うと、すぐにその噂でもちきりになった。
荒川静雅のヤクザ説より、よっぽど浸透するのが早かった。
囚人の子供、それが石田健大の過去だった。
犯罪を犯した父親、それに加担した母親。
二人とも収容された時に子供がいる事が発覚し、そのまま刑務
所で産んだという。
そして、施設に預けられたが一向に迎えには来なかったらしい。
それを声高に言いふらすと流石の石田健大も黙っていられなかっ
たらしく手を出してきたという。
人前で暴行の前科があって自宅謹慎が長かったにも関わらず再び
同じ事をしたのだ。
親だって庇いきれない。
それも、大勢の生徒が見ている前での事だったせいで余計に庇い
きれなくなったらしい。
その日をもって退学としたらしい。
まさかこのままで済ますつもりはなかった。
散々庇ってきたツケを親にも払って貰わなければ割に合わない。
「これからが楽しいのに…ここで退場とは…」
「雅くん、面白ろそうだね…」
「あぁ、こういう事は亮太らしいっていうかなんというか……」
やるなら徹底的に。
これが亮太だった。
中学でも嫌がらせをした生徒に対して報復すると言って結局は不
登校にまで持って行った。
まだ中学だったからよかったが、今ならどこまでやるのか不安で
もあった。
「ほどほどにしとけよ…」
「はい、分かってますよ〜」
笑いながら言ってきたが、全くもって信用できなかった。
次の日に伊東くんから朝のニュースを見て、亮太へと振り返った。
「亮太っ……まさか……」
「俺は何もしてないですよ?内部告発っていうんですかね〜前々か
ら仕込んでいたんですけどやっと動き出したって感じです」
にこやかな笑顔を向けてくる。
石田健大の父親の会社が倒産寸前にまでなったのには、色々と事情
があったらしいが、1年前に仕込んだやつが今、動き出したという
亮太の言っている通り、何度も内部の不満はあったらしく、それを
もみ消してきたツケが、出たという事らしい。
株価も暴落しライバル企業が食い荒らすように飛びついたせいで余
計に一気に悪化したらしい。
それを見越して株を売り抜いた会社達のせいでガタ落ち。
逆に借金が一気に増えたせいで借入も出来きず、倒産となったわけ
だが、こんな大きな企業が潰れたとあっては下請けが一気に路頭に
迷う事になる。
それを逆手に、買い取る企業が名乗りを上げたのだった。
安く買い叩き、利益を独占する。
それが、荒川組さんかの企業だったのだった。
初めからそれを見越して動いていたらしい。
それにより下請け企業は助かり、頭だけがすげ替えられた形になっ
て終息を見せたのだった。
「あいつはどうなったんだ?」
「そうだよ!これじゃ〜M& Aって事?罰になってないじゃん?」
「そんな事はないよ、安く買い叩いたせいで下請けからは反感を買
って、本来あげるはずだった利益は全部負債になったわけだから
今は大変じゃないかなぁ〜」
なんだか楽しそうに言うと、静雅を見つめてきた。
褒めてとでも言うようにじっと見つめて来たのだった。




