83話
数学旅行開けの月曜日。
学校へ行くと、周りの視線がやけに多い気がする。
「今日って何かあったっけ?」
「そうですね〜、何か変な気はしますが…何かあったらすぐに連絡
して下さい」
「うん…分かった」
教室に入ると伊東くんの側に行くと、たわいもない会話をした。
亮太はその足で、職員室へと向かっていた。
今日は、日直らしく監視の目が届かないので、休みの時間はできる
限り保健室を利用するように言われたのだった。
「雅くんは今日日直なんだね」
「うん…今日は外で食べずに保健室に行く事になりそう」
「あははっ…心配なんだよ、きっと」
「まぁ〜ね、過保護過ぎる気がするけど…」
「それでも、仕方ないよ…」
仕方ないというのは、目の前で何度も襲われているのだから安心でき
ないと言う意味もあった。
伊東だけでは何もできなかった。
あの時の雅は心強かったが、それ以上に怖さもあった。
敵だと思った瞬間容赦ないのだ。
そういう世界の人間だと認識させられたのも事実だ。
だが、それは敵に対してだけで、味方ならこれほど安心できる者はい
ない。
伊東も今日の周りの雰囲気に異常なものを感じていた。
「今日は雅くんも忙しいし、安全な場所にいるのが一番だね」
「伊東くんまで〜」
「仕方ないよ。修学旅行の最後にあんな事があったんだし。学校だから
と安心はできないかもね」
笑いながら答えると、亮太が帰って来ていた。
担任の先生が来るとホームルームをして授業が始まる。
全く変わりのない日常に思えたのだが、昼放課になった瞬間違和感の理
由を知る事となった。
「おい、このクラスにヤクザの息子がいるってどいつだ?」
3年の先輩が大声で叫んで来ていた。
こう言う輩には関わらない方が一番いい。
そう思うと後ろのドアから出て行こうとする。
が、うしろからも3年の先輩が入って来てドアを塞いだ
「荒川って誰だ?名乗り出ろ!」
「荒川くんって………」
クラスの視線が静雅に集まるのを見ると3年の先輩が近づいてくる。
「あのっ……なんの用ですか?」
「お前がヤクザのだってのは事実か?成績も金で買ってるんだってな?」
「そんな事してないっ!なんでそんな出鱈目な…」
「出鱈目か?」
間近で睨まれると、流石に体格の違いに後退る。
「これ見ても、違うと言えるのか?」
見せてきた一枚の写真。
それは荒川組の門を堂々と入っていく静雅の姿だった。
隣には屈強な男が立ち並び、ガードしている。
サングラスをかけた男の間に立っているのは荒川静雅にそっくりだった。
そして降りたであろう黒塗りの車。
制服姿の荒川の姿を見て伊東の方が笑い出したのだった。
「それ、よくできた合成写真ですね!先輩、まさか信じてます?」
「お前…誰だ?」
「僕は荒川くんの友人です。その写真おかしいって思いませんか?」
「どこがおかしいんだ?」
伊東が指差した場所。
そこはバックと荒川の周囲に着目した場所だった。
写真はあたかも撮ったもののように見えるが、加工がされている。
それに気づいたのは初めからだった。
静雅がいつも送り迎えをしているのは軽車両で、和泉先生だった。
そして、必ず横にいるはずの雅もいない。
となれば合成以外にあり得ないのだ。
そこから、考えて合成らしい場所を探ればいい。
荒川の後ろにいるのは黒服の男達。
だが、制服の袖の後ろは他の色が写り混んでいる。
そして、犯人が雑だったのか、繋ぎ目も違和感が出ている。
よーく見れば分かる程度だが、こんな雑な作りで人をはめるよう
な卑怯な奴はプロの殺し屋とは思えなかった。
「よーく見てわかりませんか?」
「確かに……だが、これが偽物だとなんで分かった?」
「だって、僕は荒川くんの家によく遊びに行きますから。」
「なるほどな…悪かったな?もし事実なら身ぐるみ剥いでやろうって
思ってたんだ。ヤクザだからってなんでも好き勝手できねーくらい
に凝らしてやろうって思ってたんだが…こんな弱っちい奴だとは思
わなかったぜ」
さっきまで凄んでいた先輩はさっさと帰っていく。
「怖かったぁ〜」
「伊東くん…」
「いきなりアレはびっくりするよね〜」
「う…うん…」
「僕も父さんみたいな警察官になりたいからね!このくらいは平気だ
よ」
「凄いね……亮太も居ないし、どうしようって思ってたよ」
「そうだね、でも…友人を信じられなかったら、僕は父さんに顔向け
できないから」
笑ってはいるが、怖かったのだろう、震えていた。
少し離れたところで亮太が飛び出すべきかと悩んでいたが、すぐに
踵を返すとさっきの先輩達の跡を追ったのだった。




