82話
濡れて湿り気を帯びた身体にピッタリと抱き合うと予想以上に
恥ずかしかった。
誰も見ていないとは知っていても、この鍛え抜かれた筋肉に触
れるのは、静雅の貧相な身体だった。
まじまじと見ても、勝てっこない。
細身だが、しっかり筋肉がついていてしなやかなボティライン
は毎日鍛えている証拠だった。
「あ…あのさ……亮太?」
「もっと貴方に触れたい。貴方の全てが欲しい…後一年と少し
で俺のモノになると思うと嬉しいです」
「あぁ……うん……」
確かに言った。
言ったけど、一体何をされるのだろう。
やっぱり…セック………いや、それ以上だったり?
予想がつかない。
「怖いですか?」
「いや……うん、少し怖いかも…亮太が求めてるものが僕には分
からない…だって僕のどこがいいか分からないし、女子みたい
に柔らかくないし……童貞だし……」
強く抱きしめられると心臓が煩いくらいに高鳴る。
「女子なんて興味ないです。眠る時も、起きた時常に静雅くんが
いてくれればいいんです。そして…夜は毎晩俺を受け入れてく
ださい。」
「受け入れるって……」
「ここに俺を入れてくれればいいです。あ、でも今は何もしない
でくださいね。俺が静雅くんの初めてに触れたいので、開発も
全部俺がしたいです」
「開発って………」
尻を撫でられると孔門であろう場所を指でクニクニと突かれた。
顔を真っ赤にして離れると笑いながらお湯をかけて来た。
湯船に浸かると後ろから抱きしめられる。
いつもなら安心するのに、今日はソワソワして落ち着かない。
「どうしたんです?もしかして…」
「なんでもない!」
「一回ヌきます?」
「違う!」
まったく、恥じらいがないのだろうか!
いや、人前では猫を被っているのだからそれくらいのモラルはある
のだろう。
が、静雅と二人っきりだといつもいやらしい事ばかりをいってくる。
本気なのか、冗談なのか、検討もつかない。
もし…本気なのだとしたら……
「のぼせますよ?」
「分かってる…」
ザバっと湯船から上がると、静雅の背中にはボタンの花が描かれて
いた。そこには寄り添うように一匹の竜が横たわっている。
前にはこんなのはなかった。
「亮太……お前………」
「なんですか?刺青ですか?この前入れたんです。前は肩口だけだ
ったんですけど、今度は背中にも…まだ途中なんですけどね」
軽く笑うように言うが、静雅には笑えなかった。
小さな肩口にあった刺青は今は絵の一部となっている。
派手になっていく背中の絵柄に、ヤクザなのだと実感してしまう。
まだ、静雅と同じ高校生なのに…
脱衣所に出るとタオルを手に取る前に亮太が身体を拭いてくれ、髪
を丁寧に乾かしていく。
もう、この行為にも慣れて来た。
初めは自分でやると何度も言ったが聞き入れられず、ドライアーも
すぐに取られた。
今は、ただ座ってやってもらうのを待つだけだった。
鏡に映った亮太の姿は楽しそうで、不思議だった。
人の世話をするのがそんなに楽しいだろうか?
理解に苦しむが、本人が好きでやっているのなら拒む理由はない。
一緒居間に向かうとそこには久茂がお茶を啜りながら待っていた。
「おじいちゃん…用事ってなに?」
「座りなさい。亮太、今日の報告はあるか?」
こう言う時は孫を見る祖父ではない。
怖い顔をして報告を待つ姿はあきらかにカタギではない。
「はい、今回敵の処理に戸惑いましたが全員の始末はついています。
身元ですが、分かるものは持っておらず不明との事です。」
「はぁ〜、何人かお前につけたわけだが…静雅に怪我を負わせたらし
いが?」
「はい……少し目を離した隙に……ですが……」
「言い訳はいい。伊東の坊が役にたったようだの?生活の保証はこっ
ちで持つことにしよう」
「はい」
学生のうちは面倒を見ると言っているようだった。
こう言う会話には口を挟まない。
いくら孫であっても、言っていい場面くらいは区別がつく。
「静雅、大丈夫か?」
「うん……大丈夫、ちょっと怖かったけど、亮太もいるし…」
「そうか…ならいい。もし、まだこやつが嫌なら完全に他所へやるが
どうする?」
そういえば、前に亮太の護衛を外して欲しいと言ってしまっていたの
を思い出した。
あの時は亮太の好きな人とやらの事を聞いたせいで、危険な任務から
外そうとして言ったのだった。
「いや……亮太がいいならそのままで…」
「俺はずっと静雅坊ちゃんのそばでお護りしたいです」
「なら、今のままでいいか…だが、もしミスがあった時は…分かっと
るな?」
「心得ています」
亮太の声がいつも以上に緊張している。
やっぱりおじいちゃんの前だとみんな緊張するみたいだった。




