78話
いきなりの爆発音に、誰もが驚き混乱していた。
数人がその爆発に巻き込まれたのか、係の人がきて運び出され
ていた。
真っ赤に染まった服を目の当たりにして足がすくんで動けなく
なっていた。
近くで爆発したせいか耳鳴りが酷い。
駆けつけてきた人が座り込んでいた静雅と伊東を見つけた。
「大丈夫かい?動けそう?」
「はい…荒川くん?」
「…あっ………あれ……ごめん……立てない…」
「いいよ、まずは落ち着いて…もうすぐ雅くんも来るから」
「…うん」
「無理そうなら俺が運ぼうか?君は歩けるかい?」
「はい」
いきなり見知らぬ男から声をかけられたのだった。親切なの
だろうか?
伊東は自ら歩けると言うと、その男は軽々と静雅を抱え上げ
た。
「すいません、バスまでいいですか?」
「いいよ、ちょうど探してたから…ここは危険だから早く離
れた方がいいこっちだ、おいで」
「はいっ…」
そう言うと男が駐車場まで案内してくれるという。
が、ついて行くが、一向に建物の裏に出てしまってみんなと
合流できない。
「あの〜道が違いませんか?」
「間違っていないぞ?俺が仕掛けた爆弾に引っ掛からなかっ
たとはな…運のいいやつだ」
「…!?」
咄嗟に腕の中で暴れるがパッと手を離され地面に転がった。
震えて立てない。
逃げなきゃいけないのに…これではただの足でまといだった。
「大人しく殺されてればいいのにな〜。まぁ、俺が直々に殺
りに来る羽目になるとはな〜」
「なんで……」
「なんでって、お前の親を恨むんだな?ここで死ぬのはお前
が弱いせいだよ。」
そう言うと後退る静雅の首に男のゴツい手がかかる。
細い首は握りしめたら簡単に折れてしまいそうだった。
「すぐにイかせてやるからな?苦しいのはいやだろ?」
「やめろぉぉぉーーー!」
ついてきていた伊東が男に体当たりをしたが全くびくともしない。
逆に弾かれて尻もちをついただけだった。
「弱いな…こいつが護衛か?」
「逃げて…伊東くん……」
「やだっ!友達を見捨てて逃げるなんて絶対に嫌だっ!」
親譲の正義感に心打たれたが、ここではそれよりも自分を大事にし
て欲しかった。
次第に苦しくなって、視界が霞んでくる。
酸欠になってもうだめかと思った矢先、パンッと軽い音が響き目の
前を赤い液体が吹き出す。
男の腕が真っ赤に染まって行く。
一気に解放されたせいで空気を一気に取り入れすぎて咳き込んだ。
「ごほっ、ごほっ…げほっ……」
「荒川くん!大丈夫?」
「このっ…誰だ!」
男は後ろを振り返ると敵意を剥き出しにした。
腕を押さえているせいでさっきよりは恐怖が消える。
「誰を殺そうとしてるんですか?その人に触れていいのは俺だけな
んですけど?」
雅の声がいつもと違っていた。
まるで腹の底から搾り出したような声に伊東と静雅もビクッと震え
た。
こんな亮太は見た事ない。
いや、一回見ている。
あの時、自分を助けにきてくれた時もそうだった。
怒りのこもった声だった。
たかが護衛対象にそこまで必死になる理由がわからない。
無茶苦茶な約束を取り付ける静雅は亮太にとってはあまりいい主人
ではないはずだった。
「亮太……」
「そこで待っててください…こいつを片付けたら避難しますよ」
「おいおい、勝手に俺を無視して貰っては困るな〜」
「ただのモブに興味はないです。それより、その汚い腕要らないで
すよね?」
何を言っているのか理解できなかった。
爆発の後のパンッという軽い音は数回続いたが、瓦礫の崩れる音に
紛れて掻き消されたのだった。
裏の通用口付近だったせいか人が来るかと思われたが、誰も来ない。
目の前の男の仲間が駆けつけてくる様子すらなかった。




