61話
静雅の部屋の前に来るとドアをノックした。
が、返事はない。
鍵はかかっていないのを確認すると勝手に入った。
部屋の中は暗くて手探りでしか動けない。
電気をつけると布団の中にくるまったままの静雅が寝息を立てていた。
ゴミ箱にはさっき捨てたチョコが無造作に捨てられていた。
「静雅くん、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ…」
ゴミ箱から取り出すとメッセージカードも入っていた。
不器用だけど、見慣れた文字で書かれたモノにちゃんと見ておけばよ
かったと反省していた。
「ん?亮太…?」
「これ…貰っていいか?」
「…お前が捨てたんだろ……」
「そうだけど……去年みたいに誰か知らない女子から渡されたんだっ
て思ったから…静雅くんが用意したって知ってたら……」
「知ってたら?捨てなかった?もういいよ……亮太の欲しいのは久茂
っていうおじいちゃんの孫の僕だもんな?好きにすれば?」
「違うっ……俺が好きなのは静雅くんだけだよ。静雅くんの為なら組
だって裏切ってもいいって思ってるんだ……」
「もういいよ。それ、聞き飽きたから…出てって…」
「…」
このままじゃダメだッ!
そう思った瞬間ドアの鍵をかけるとベッドの方に近づいて行った。
静雅が反論しようと起き上がったが逆に押さえつけるようにベッドに
縫い付けた。
「俺がいつだって…静雅くんに本気なんです。ここにきた時からずっ
とです。どうしてわからないんですか!」
「知らない……分かりたくないっ……僕を好きにいいとは言ったけど、
それは卒業したらって言ったはずだけど?」
「それは……」
「どいて……今すぐ出てって……」
「…分かりました。でも、これは貰って行きます」
「勝手にすれば?どうせ亮太が捨てたもんだし……」
「…」
それ以上は何を言っても無駄だと思えた。
こんな事なら始めから素直に受け取っておくべきだった。
伊東くんも早く教えてくれればいいのに…
他人に責任転嫁すると、部屋を出た。
その日以降、亮太のスキンシップをわざと拒むようになった。
さりげなく触れていた事だったが、あからさまに避けられると流石に
こたえる。
「雅くん…ちょっといい?」
「なんですか?」
「バレンタインデーの日に何かあったの?」
「あぁ………それは………」
毎日一緒にいるのだから、これほど極端に避ければ流石に気付く。
そして、理由を説明すると、呆れるように笑われたのだった。
「雅くんでもそんな事あるんだね〜、でも…流石にこれは荒川くんに
同情するかな〜。だってあんなに好きだって積極的にされて、脈あ
りだと思った相手から邪険にされたら、腹も立つでしょ?」
「それは………」
「別に僕は偏見も無いし、男同士だからとか言うつもりはないけど、
きっと大変だと思うよ?それでも好きならちゃんと伝えなきゃ!で
しょ?」
「ごもっとも…」
伊東くんには色々とバレバレだったらしい。
確かに、あんなにべったりだったらわからない方がおかしいだろう。
クラスの女子の一部は多分気づいているだろう。
ただ認めたくなくて、見ないようにしているだけだった。
それでも諦めきれない女子は亮太へと手紙を綴るのだ。
ラブレターという名のただの感想文を…。
報われない想いを書いた、ただの…一方通行の恋文を。
今日もまた朝から2通入っていた。
一応、前のように静雅を狙われるのは流石に困るので返事をしに行く。
人目のつかない校舎裏。保健室の窓の裏。
よく、静雅や、伊東の放課後の溜まり場では毎日のように亮太に想いを
伝える女子が絶えなかった。
「今日は何人目?」
「ん〜………知らない……」
「荒川くん、そろそろ許してやったら?」
「別に怒ってないよ?僕がどう思おうと、あいつはあいつだし…多分、僕
の気持ちなんて関係ないんだよ……知る必要もない……」
時間が経てば、すぐに薄れて行く。
抱きたいならそうすればいい。
呆れば捨てるだけの事。
だったら……こっちも利用してやる。
親を殺すた奴らを全員葬るだけだ。
それさえ終われば、こっちから捨ててやる。
おじいちゃんにとって一番大事なのは組でもあるが、孫の自分だ。
孫の自分が組員にナニをされたかを伝えればただでは済まない。
そう、これは亮太を操る為の行為であって彼を苦しめる事にも使える。
だから、好きにさせてやる。
僕の全部をお前にやるよ。
それが、どんな事になろうと知らない。
今はまだ使えるうちは、側にいればいいんだ。
そう考えると、心が少し落ち着いた気がした。
過剰なスキンシップもするりとかわし、何事もなかったように振る舞う。
話す時は伊東くんをかえしてしか言葉を言わない。
直接話すことは一切しない。
そのせいで、亮太の方も話しかけて来る事も滅多に無くなったのだった。




