59話
もうすぐ2年へと進級する。
今回も伊東くんと同じだといいなとぼんやり考えていた。
「何を考えてるんです?」
「もうすぐクラス替えだなって…」
「そうですね〜俺はずっと同じクラスになるので安心してください」
「なっ…なんでだよ。そんな事は…」
「決まってるんです。護衛が離れるわけには行かないでしょ?」
「それは………」
きっとお金で解決したのだろう。
そうじゃなかったら学年ツートップが同じクラスになるはずがなかっ
た。
裏での取引を嫌がる久茂だったが、こればっかりは譲れなかったらし
い。
孫の命には変えられないという事なのだろう。
また女子の騒がしい声を毎朝聞く事になりそうだった。
二月のバレンタインデーにはこぞって亮太にチョコを渡そうとしてい
る女子の苦労がうかがえた。
下駄箱や、机の中。
直接渡そうとした人は全員がお元帰りを余儀なくされた。
「少しは受け取ってやれば?」
「嫌ですよ。何が入ってるか分からないような手作り食べれるわけな
いでしょ?」
「市販品もあっただろ?」
「俺がほしいのは貴方からのだけです。まぁ、期待はしてないですけ
ど?」
「期待してないなら、すんなよっ!」
それでも、コンビニでチョコを買ってしまう。
そう、いつもの御礼なのだ。
別にバレンタインデーだからじゃない。
そう言い聞かせながら鞄の奥にしまってある。
保険室で勉強道具を広げて伊東と一緒にいる。
外は亮太を探す女子が騒いでいた。
「本当に嫌な時期だね〜。雅くんはモテモテだからいいけどさ〜」
「まぁ〜いつもの事だしな…」
「そういえば、荒川くんはどうだった?さっきクラスの女子に貰って
たよね?」
「あぁ…それなら……」
言うより先になんとなく察したのだった。
「大変なんだね…」
「そうだね…特に亮太がね……」
静雅の口に入るものは亮太が検分する。
だが。亮太自身食べないので、クラス男子全員に配られたチョコは
静雅の手から取り上げられて亮太がしまってしまったのだ。
逆に渡されたのは亮太が用意したであろうお高いチョコの箱だった。
今目の前に広げながら食べている。
「これ、マジで美味いね」
「そうなんだよな〜……」
「荒川くんのチョコって雅くんが用意したものだよね?荒川くんも
渡すの?」
「それは………」
鞄の方を見るが、これは出しにくい。
亮太のようにちゃんとした店で買ったわけでもない。
ただコンビニで買っただけのもので、ラッピングされているわけで
もないのだ。
「コンビニのチョコなんて渡しずらいだろ………それに僕のは……」
「そんな事ないよ、渡す事に意味があるんだし!ちゃんと渡した方
がいいよ」
「そうかな…」
「そうだよ!絶対に喜ぶよ!きっと」
「うん……そうだね」
亮太が帰って来るまでしばらくチョコを摘みながら勉強をしていた。
ガララっと音がすると、和泉先生と一緒に亮太が帰ってきていた。
「お帰りなさい」
「そろそろ帰りますよ。片付けて下さいね」
「はーい。」
「静雅くん、風邪ひかなかようにマフラーもしっかりしてください」
「分かってるっ……子供じゃないんだから言わなくても分かるから」
亮太は相変わらず世話を焼きたがる。
それも静雅に対してだけだった。
車を回してきた和泉先生を待つとそのまま乗り込み、伊東を送った後
家へと向かった。
何人かは同じ家の離れに一緒に住んでいるので、家としては一緒なの
だった。
「さぁ、つきましたよ…」
「いつもありがとう」
「いえ、荒川くんがお礼を言う必要はないですよ。雅くんは少しは感謝
して欲しいですけど…」
「俺は護衛の為にいるんだ、当たり前だろ?」
「はいはい、そうですね。」
車を降りる時に、静雅の鞄も一緒の持つと勝手に部屋へと持っていく。
「亮太っ……あのさ…鞄…自分で持つから…」
「いえ、俺が運びます」
「…」
「そういえばチョコ食べてくれたんですね。嬉しいです」
「うん…美味しかった…」
「本当は一人で食べて欲しかったですけどね…まぁ、いいです」
そう言うと部屋に鞄を置き、静雅の部屋のドアを閉めた。
いつものようにぎゅっと抱きしめられる。
最近は鞄を持つのもこうやって二人っきりになる為と言っていた。




