57話
あの日から覚悟をしていなかったわけではない。
亮太が言っていた抱きたいとは、静雅を女のように抱くという
意味だと知ったのは亮太に返事をしてからだった。
今はネットで調べれば何でも知る事ができた。
亮太はゲイなのだろうか?
今日聞いた限りでは店の女性で生処理をしているらしい。
なのに、こうやって誰もいない時は抱きしめてくる。
男の身体など触っても解くなど何もない。
尻の当たる硬いモノに顔が赤くなる。
首筋を舐められると、亮太にすら勃ちかける。
「キス…マークつければいいだろ…」
「静雅坊ちゃん……それは……」
「たかがマークだろ?言っただろ、僕だって子供じゃない。ちゃ
んと理解して言ってるんだ……卒業後は僕を好きにしていい。
亮太のしたい事をなんでもしてやる。だから今は我慢してくれ」
「貴方と言う人は……全く、罪作りな人だ…」
チュウッと肩口に唇を押し付けるとチカっと痛みが走る。
「うん、俺のだって印……もっとしたくなりますね」
「いいよ……見えない場所なら……」
「俺に甘すぎますよ…」
そう言うと、前を向き直ると鎖骨にも同じようにしてきた。
後で鏡を見て驚くのは夜に風呂から出て鏡を見たあとだった。
最近はスキンシップが増えた気がする。
卒業後までは手を出さない。
そう言っていた、なら卒業したら…
『毎晩抱かせてもらいますよ…』
亮太の言葉が頭から離れなかった。
「僕、どうなっちゃうんだろ…」
男同士でのセックスはネットで調べたけど、怖い事には変わりな
かった。
その頃、くらい倉庫の中では蠢く影が二つ月明かりに照らされて
いた。
「うっ………」
「おい、起きろっ……このくらいで根を上げてちゃこの世界では
生きていけねーだろ?」
顔は殴られたのか真っ赤に腫れて片目はもう見えていない。
「うぅっ……」
「誰の指示だ?」
「しらな………ぐふっ……」
「誰の指示でやったんだって聞いてんだよ…聞こえてるか?」
「…ほ……ほんとに………しらな……い」
身体の自由も効かずただ殴られ続けたせいで、左耳は音すら聞こ
えない。
唯一聞こえているのは右だけだった。
左耳から垂れる血はすでに固まってきていた。
「こいつ本当にしぶといな…」
顎を下から蹴り上げると、噛んだのか口から血が溢れ出す。
「ぐふっ……げほっ……ごほっ……」
ぼたぼたっと垂れていくのを眺めるとめんどくさそうに布を口の
中に突っ込んだ。
奥からもう一人誰かがくるとその男はこうべを下げていまの状況
を説明した。
「そうか…吐かんか……それは困ったな〜」
男は青年のズボンの前を開けると中のモノを取り出すとペタペタ
と撫でた。
そして次の瞬間靴で踏み潰していた。
「うぐぅぅぅ……んんんっ!!」
「痛いか?話すなら首を縦に振れ…そうじゃない時は………」
足に力を込める。
ぐりぐりと地面にめり込ませると暴れ出す。
そしてついに何かが弾けるようなグシャっという音がした。
踏み潰していたモノが弾け血が吹き出す。
白目をむいて気絶したのを確認するとため息を漏らした。
「こいつはあかんな、処理しておけ」
「はいっ!」
男は懐から出した拳銃を青年の頭につける。
一発、パンッと軽い音が響くと動かなくなった。
夜の海にボートが出航した。
暗い海の上で陸から数キロ離れた場所でドボンッと何か重たい
モノが投げ込まれた。
沈んでいく青年が発見される事はなかった。
次の日のニュースにも何の報道もされない。
今もただ暗く冷たい海の底へと沈んでいく。
誰にも発見されず、生きていた事さえ記憶から消えていく。
裏切り者には死を…
それが組のおきてなのだった。




