54話
いきなりの振動と爆発音に観客はパニックになっていた。
道路まで行くと車が止めてあった。
中では和泉先生が手を振っている。
「こっちだ」
「先生?どうしてここに?」
「和泉先生……」
「荒川くん、伊東くん早く乗って」
「でも、雅くんは?さっきここに…」
さっきまでいた亮太はもう引き返して戻って行った。
静雅だけを安全な場所に連れていく。
それは、今だと和泉先生の車まで案内するという事だった。
「まずは発進させるよ。シートベルトをしてくれよ」
「はい」
しばらく走らせた後で、伊東くんが残念そうに呟いた。
「あー楽しみだったのにな〜」
「今日はどうせ中止ですよ。ライブをするはずだった本人は今生
ラジオで九州らしいですよ?」
「なんで?今日のチケットだっだよ!」
「あらかじめキャンセルになっていたとか…それに客達はみんな
エキストラで雇われた人らしいですよ」
「なんでそんな事を……」
「僕が…目的ですか?」
さっきまで黙っていた静雅が口を開いた。
「…おそらくは……」
「なんでだよ、荒川くんは関係ないだろ?」
「伊東くん、巻き込んでごめん…多分一緒にいると危険かもしれな
いんだ…だから…」
「なんでか知らないけど、友達を信じられなきゃ意味ないよ!僕は
大丈夫だよ、父さんもよく言ってたんだ。一度信じるって決めた
やつの事は最後まで信じてやれって。」
「お父さんは凄い人だね」
「あぁ、本当に尊敬できる人だったよ」
尊敬できる警察官だった。と。
「でしたら、話しても大丈夫そうですね。今回そのチケットは波戸
崎駿からのモノだったでしょ?公明会の岩井組、その頭が岩井久
喜、その養い子が波戸崎駿なんですよ。」
「うわぁ〜それって、ヤクザって事ですよね?先生って詳しいんで
すね〜」
関心したように頷く伊東くんに苦笑いを浮かべた。
それもそうだろう。
和泉は元々は荒川組の構成員なのだから。
「あ、でも…荒川くんも雅くんも親がいなくて今はルームシェアし
てるって言ってたよね?それなのに狙われるんですか?」
素朴な疑問だったのだろう。
確かに、それが事実だったら狙われる理由など全くないのだが。
「そういう事にしてたんですか?」
「そういう事っていうか……亮太が……」
「そうですね。流石に普通には話せないですね」
和泉先生は笑いながら言うが、伊東にはなんのことか理解出来ていな
かった。
「伊東くん。あれ…嘘なんだ。咄嗟に亮太が言った事に僕も乗っただ
けなんだ…本当は両親が亡くなってから施設に預けられてた…」
約2年施設で育っていた事、そして引き取られた先がヤクザだった事。
そして、本当は自分の父親がヤクザの息子であった事をそこで始めて
知った事を話した。
伊東くんの態度が変わるのではないかと心配して話せなかった事を言
うと、笑われてしまった。
「そんな事で僕が態度を変えるわけないでしょ!甘く見過ぎ!僕だっ
て始めからそうは思わないかもしれないけど、もう荒川くんの性格
も知ってるし、雅くんのあの過保護っぷりを見れば信頼出来るって
わかるよ」
「伊東くん…」
「では、今は家にお連れしても良さそうですね」
「はい、荒川くん達の家、楽しみだな〜」
一般人が簡単に入れるような場所ではないので確かに気にはなるだ
ろう。
そんなに期待されても困る。
なにか特別なものがあるわけではない。
ただ、強面の男達が大勢いるくらいだ。
最近は慣れたが、来た始めは毎日横を通り過ぎる度にビクビクして
いたのを思い出した。
「そう言えば、静雅坊ちゃんが来た時は毎日怖がってましたよね?」
「だって…目が合うとすごい声で挨拶してくるし、顔が怖かったん
だもん…」
「あはははっ、それは仕方ないですよ。」
軽く笑っているが、まだ幼かった静雅には毎日が怖くて亮太の側か
ら一切離れようとしなかった。
「ずっと雅くんを呼んではそばにいるように言ってましたよね?」
「それは………同じ年の子供がいなかったから…」
「雅くんも満更ではなかったからいいですけどね…学校ではモテ
ますもんね〜。まぁ、あんなガキ相手より、大人の女性のが良
かったと思いますけど…」
「ん?大人の女性?亮太が?」
「はい、とっくに童貞は卒業してるので…変な女引っかからない
ようにと初めからそういう行為は店で体験させるんですよ。」
「あいつ…初めてじゃないんだ……」
「…?何か言いましたか?」
「いや、なんでもない…」
車が止まると大きな屋敷へとついた。
静雅も最初来た時は驚きもしたが、今では慣れてきたのだった。




