52話
「バカやろう!そんな大事な事を今まで黙ってるたぁ〜
どう言う事だ!」
怒鳴り声に聞いていた人は全員が振り向いて顔を出す。
怒鳴ったのは名護咲夜の父親だった。
同じ組員でまだ現役のヤクザ者だった。
雅に常日頃から対抗意識を燃やしているのは知っていたが、
まさか手柄欲しさに先行したなどとは思いたくなかった。
が、今も連絡がつかない。
毎朝の食事にも出てこないし、おかしいとは思っていたが、
外回りだったので、月末の忙しさに確認すらできていなか
った。
そして、それをライバルの雅亮太に指摘されたもんだから、
苛立ちが募っていたのだ。
八つ当たりだった。
「組長にはもう言ったのか?」
「まだです。ですが…早く見つけ出しておかないと耳に入る
日も近いかと…」
「おい、ヤスの倅だからって調子に乗るなよ」
「それはこっちのセリフです。静雅くんの側にうろちょろし
ないで下さいとお伝えください」
「チッ…食えないやつだ」
すぐに部下を呼ぶと車を回させた。
彼の名義で借りているアパートへでも行くのだろう。
住み込みの人間もいるが、大体は通いだった。
よそで奥さんを作り、会社員のように時間に出勤する。
この時代では、まるでサラリーマンのような時間で動く。
緊急招集は臨時手当が出る。
それは店からの取り分から分配されることになっているのだ
った。
勝手に人を集めての捜索は本当なら、やらない。
組長の孫だった静雅を探す時は組長命令で、緊急招集された
が、たかだか組員一人の事で動かす事はできない。
動かせる人員はと言うと、できて数人程度だった。
この広い都会の街の中を探し回るにはあまりにも少な過ぎた。
アパートに行ってももぬけの空で、帰った形跡すらなかった。
ライブ当日になると、スタッフとして紛れ込んだ人員は安全
確認の為に各所の配置された。
密に連絡をとりながら、安全を確保する。
もし、変な動きがあればすぐに退避させるべく、会場内にも
バイトとして、亮太が潜り込んでいた。
「そこのスタッフくーん、こっちのを運んできてくれ」
「はいっ…」
「備品倉庫に置いておいてくれ」
「はい、これだけですか?」
「いや、そこの廊下の全部だ。」
数十箱はあるだろうか?
重みも結構あった。
「楽して稼ごうとは思うなよ?ライブ見れるとか思ってバイト
を申し込んだのなら御愁傷様だな」
わざと、やっているようにしか思えない。
こんな浅はかな奴は組員とは思えなかった。
「では、運んでおきますね」
「ライブが終わるまでに運び終わるといいなぁ〜?」
「別に俺はライブには興味ないので構わないです」
「強がり言っちゃってよ〜、顔がいいからってよ〜生意気なん
だよ」
あーこれは完全に嫉妬だな。
そう考えるとサクサクと運び始めた。
運んでいる中でどうにも気になることがあった。
各所に置かれているポリタンクだった。
廊下の隅にも、会場の片隅にもあった。
さっき客が入る前に会場の掃除をやったが、やっぱり置いてあ
った。
中身を確認したいけど、人がいてそれもままならない。
備品に触れない。
これが仕事を受ける上での前提だった。
そう考えるとすごく怪しかった。
目ばせをすると、奥に行きながら中身を確認すべく、人がこない
ようにさせる。
そして蓋を回すとぷ〜んと知っている匂いがする。
「ガソリンだな…どうしてこんなところに…」
「誰だ!何をやっている……っ…雅っ………」
「お前…名護じゃないか…お前こそ何をやってるんだ?」
「それは………」
口どもるのを見ると、秘密にしなければならない事らしい。




