51話
波戸崎から貰ったライブのチケットの日にちが迫っていた。
夏休み入ってすぐの土曜日。
伊東くんは楽しみにしているけど、波戸崎駿は岩井組の構成員
だったという事実から、何事もなく終わるとは到底思えなかっ
た。
「本当に行くんですか?」
「伊東くんが楽しみにしているからね…」
「では、スタッフに組員を配置しておきましょう」
「いいの?」
「静雅くんを守るのが俺の仕事ですから…まぁ、私的な理由も
増えましたけど…」
肩を抱き寄せると顔が近づく。
ここまで露骨にされると恥ずかしくなる。
「顔が真っ赤ですよ?可愛い」
「揶揄うなって…」
「3年後、覚悟しておいてくださいね」
フッと笑うと解放された。
誰にも見られてないかと周りを見回し、ほっと胸をひと撫でし
た。
「やっぱり、雅くんの行動が結構大胆になってきたね!」
「ひゃぁう!」
いきなり声をかけられて驚いて声が上擦っていた。
出てきたのが伊東くんで本当によかったと思った。
最近は静雅の心の平穏の為、保健室に入り浸り事が多かった。
こんなに毎日迫られては心臓がもたない。
手を出さないと分かっていても、ドキドキさせられるとその度に
緊張が走るのだった。
試験を挟んで夏休みが始まった。
週末はライブがあるのでそれまで課題を終え、調べ事に熱中した。
「亮太、ちょっといいか?」
「なんですか?」
「あのさ〜組員の中に名護咲夜って聞いて事あるか?」
「あぁ、そういえば最近見てないですね…ちょっと調べましょう
か?」
「う〜ん、まぁ…いっか……」
「何か心配事ですか?」
「いや……なんと言っていいか……」
言い淀むので、余計に心配になってくる。
「静雅くん、なんでも話すって言いましたよね?」
「あ〜それは……う〜ん………前に亮太から聞いたって言われて…
もし岩井組を潰せたら…………」
「はぁ?貴方バカですか!何他の人にもそんな約束してるんです
か!」
「いやっ……だって……」
「本当に隙だらけですよね…今からでも身体にわからせた方がよ
かったですか?」
ぐいぐいと迫られると壁際まで追い詰められた。
ドンッと壁に両手を着くと完全に逃げ場を失ってしまった。
「どうなんですか?誰でもよかったんですか?」
「そんな事は……ない」
「なら、なんでそんな話になってるんですか!」
「だって……亮太から聞いたって……」
「はぁ〜…俺が言うわけないでしょ?」
大きなため息を吐くと、唇を重ねた。
何度も吸い上げるように唇を貪る。
「ぅッ……ンッ……ふぁっ……ぅんっ……」
「本当に貴方って人は……こんな事誰にでも許さない出くださ
いね」
「うん……」
男同士なのにキスした唇は柔らかくて気持ちがよかった。
「本当に我慢するのが大変になりそうですよ。いっそ、このま
ま犯してしまいたいくらいですよ」
「…!!」
「しませんよ。でも…何をされるかくらいの知識は自分で調べ
ておいて下さいね。後で後悔しても知りませんよ」
「…はい」
なんでかお説教されてしまった。
名護咲夜はきっと部屋の外で会話を聞いていたに違いない。
となると、無茶しないわけはない。
いつも亮太の位置を狙っていたくらいだ。
きっと、静雅坊ちゃんの隣を欲したのだろう。
多分、言い方が悪かっただけだろう。
だが、問題は今、何をしているかだった。
組には顔を出していない事から、岩井組への潜入を図ったか、もし
くは、見つかって始末されたか…
どちらにしろ、報告はあげておいた方がいいだろう。
ただ。どう説明するかだった。
「まぁ、適当に抜けたといえば捜索されて見つかるか!」
軽い気持ちで報告したのだった。




