5話
新入生の皆さん、入学おめでとうございます。
それでは新入生代表、荒川静雅くん、壇上にお願いします。
先生の声に静雅はがっくりしながら壇上へと向かっていた。
遡ること数日前。
入学式のスピーチの話が舞い込んできた。
しかし、どうにも疑問が浮かんだ。
なぜならば、首席合格者が代表スピーチと書かれていたはずだった。
雅亮太…彼は静雅のお目付役で学校での安全を守るのが役目だった。
が、運動神経、頭脳明晰、非の打ち所がないくらいに明るくイケメン
だった。
そんな彼が、選ばれないはずはなかった。
「亮太ぁ〜!なんで新入生代表じゃないんだよっ!」
「あ、坊ちゃん!代表スピーチおめでとうございます。」
「あ、ありがとう…じゃねーよ!絶対にここは亮太だろ?」
「嫌です、だって俺は坊ちゃんの護衛ですよ?壇上に上がってる間に
何かあったらどうするんですか〜、俺の指無くなっちゃいますよ〜」
「それって…まさか……」
「はい、辞退しました」
「…」
ふるふると拳を握り締めると、一発殴ってやりたくなった。
が、亮太に当てられるほどの力は静雅にはなかった。
こうして朝も揉めながら登校してきたのだった。
「向こうで絶対に坊ちゃんって呼ぶなよ!」
「はいはい。静雅坊ちゃん」
「だから呼ぶなって!」
「分かってますって」
なんでもそつなくこなすこの男が静雅の護衛だとは誰も知らない。
中学の時は、家が近かったせいかヤクザの息子と言われ誰からも話
しかけてもらえず、ただただ亮太と一緒にいることが多かった。
だが、ここでは違う。
誰も静雅の事を知らないし知られては行けない。
壇上の上にあがると、小憎たらしい亮太は涼しい顔で見上げていた。
イラッとしながら黙々と決まった文章を読み上げると壇上を降りた。
次に在校生の挨拶。
凛と通った声が聞こえてきて顔をあげた。
長い髪に大きな瞳。
このはっきりとした声が魅力的な女性が壇上の上で話していた。
現生徒会長らしい。
「綺麗だなぁ〜…」
「あんな女性が好みなんですか?あんまり趣味よくないですね〜」
「なっ……亮太っ、お前……」
「スピーチご苦労様です。よかったですよ?」
「…」
話が終わると各自列をなして教室へと戻る。
その途中に見覚えのある顔を見つけた。
ちらりと見えただけだったが、それは施設にいた時に何度もつっ
かかってきたガキ大将の顔だった。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるって言ってくれるかな?」
クラスの人に言うとこっそり抜け出した。
さっき見かけたのは体育館の側のドアからだった。
きょろきょろと見回すと聞き覚えのある声がした。
「おい、俺の女になれば学校生活が楽になるぞ?」
「あの…困ります。教室に戻らないと行けないので……」
「だから、返事すればいいだけだろ?新入生で俺の女になれんのは
光栄な事だろ?」
「でも…」
「俺は石田建設の息子だぞ?こんな貧乏人ばっかりの学校では位が
違うんだよ!分かるよな?その意味が…」
新入生の女子に何をたんかきっているのか。
2年上というだけで威張り散らしているがはたから見たらなんとも
滑稽な絵面だった。
「健大…まだそんな事をしているのか?」
「はぁ?呼び捨てたぁ〜いい度胸じゃねーか…ん?お前……」
「もう行っていいよ、早く行かないと怒られちゃうよ?」
「ありがとうございます」
女子が急いで逃げ出すと怒りは静雅の方に向いた。
「お前、あの時貰われていったやつか…先に貰われたからっていい
気になるなよ?」
「僕は別に里親に出されたわけでも養子に貰われたわけでもないよ」
「嘘言うなっ!どーせ金のない家なんだろ?残念だったな?俺はなぁ
石田建設社長の息子だぞ!」
「はいはい、もういいから弱いものいじめはやめたら?」
「生意気なやつだな〜、前からそういう態度が気に食わなかったん
だよっ!」
思いっきり殴りにかかったが、一瞬まばたきする間にその場にひっ
くり返っていたのだった。




