46話
1週間も、入院生活が続いた。
あとは家に帰って安静にするように言われたのだった。
静雅の身の回りに事はほとんど亮太の仕事になった。
「みんな、集まってもらったのは先日の件じゃ。」
組員を集めての久茂の決定は誰も逆らう事はできない。
そのせいか、誰もが静かに固唾をのみ、次の言葉を待つ。
「わしの孫である静雅が先日拉致された件でみんなには色々と動い
てもらたわけだが…怪我の事も含めて、誰も処罰しない事に決定
した。反論がある者はここで言う事を許す!」
鎮まり帰ったこの空間に一人手を挙げる人物がいた。
荒川組の重鎮の孫の名護咲夜だった。
何かと亮太のやることが気に入らないと言うのもあるが、静雅の
側にいるのは自分であるべきだと何度も打診していた青年である。
「名護、意見を言ってみろ」
「はい。ここは仲良しこよしでやっているのではないんです。今回
の事は組の運営に関わる事だと思っています。お情けでお咎めな
しでは下の者へ示しがつきません。腹を切るか片腕でケリをつけ
るべきではないでしょうか」
「それは…。他の者そう思っているのか?」
「…」
黙ってしまう人々の中で珍しい人物が名乗りをあげた。
永瀬だった。
常に調理場の方ばかりだったが、昔は久茂の方腕だった人だ。
「俺はそこまでの罰を与えるべきではないと思います。それに…静雅
坊ちゃんがそれを望んではいないのではないですか?」
「そうじゃな…実は先日の事故じゃが…静雅が自分で刺したものだ。
雅亮太の罰を取り下げないならと言ってな…わしは孫の静雅が一番
大事じゃ、もしこれ以上傷つけるような事はしたくないし、させた
くもない。わかってくれるかの」
その言葉には誰も反論を言えなかった。
ここで強行してしまえばきっと、久茂の反感を買うだろう。
引き下がりしかない。
ギリリッと歯を軋ませると名護は前を睨みつけた。
静雅坊ちゃんが来たとき、てっきり自分に声が掛かると思っていた。
が、実際は雅亮太の方が先に仲良くなったからと側にいる事を命じ
られた。
もし、自分だったらもっと上手くやれた。
そう思わずにはいられなかったのだった。
組に静雅坊ちゃんが帰って来た。
病院を退院すると部屋に閉じ籠り気味だった。
雅亮太が毎日のように部屋の前に行っては入るか悩んでいる姿を何度
も見かけた。
まだ、蹴落とすチャンスはあるかもしれなかった。
「何をそんなところでしているんだ?」
「咲夜………別に大した事じゃない」
「なんだ?静雅坊ちゃんに嫌われたのか?それとも部屋の前でずっと
立ってるようにでも言われたのか?」
声を荒げて言ったせいか。中にも聞こえてしまっていた。
「咲夜っ………」
「なんだ?違ってたのか?」
「黙ってろ、こんなところであぶら売ってないで自分の事をやれよ」
「あぁ、そうだった。俺も暇じゃないんだよ。そうだ、今日の仕事
亮太も行くんだろ?今日の殺しは何人だったかな〜」
「ッ……」
わざと大きめの声でいう。
静雅坊ちゃんは甘い。
殺しに関してはきっと全く理解していないのだろう。
こんな世界に生きていくのなら慣れなければならない事なのだ。
そして、一番近くにいる側近がどれだけたくさんの人間を殺めてき
たのかを知るべきなのだ。
そいつは一般人ではないのだと…。
最年少で殺しをしたのは亮太が初めてだろう。
親のヤスさんが抗争で亡くなってから、すぐに入ったのがこの世界
だった。
母親も育児放棄をしたせいで、組のみんなが親代わりだった。
一緒に育って来た名護咲夜には痛いほど分かる。
が、その反面小さいながらに一人前に扱われて羨ましくもあった。
多分年齢が近いせいだろう。
そのせいで、嫉妬したのかもしれない。
そして、今回の事もそうだった。
保護対象を攫われ、あまつさえ乱暴されたとあっては組の沽券に関
わるのだ。
しかし、それなのにお咎めないしとはおかしいとしか思えなかった。




