45話
静雅が目を覚ましたのは次の日の昼頃になった。
亮太は家族と言い張ってその場に残った。
いっときだって、静雅の側を離れたくなかった。
横に簡易ベッドを置いてもらうと、そこで寝泊まりした。
朝方、警察の人が来ていたが看護師に止められると、帰っていった
のだった。
「んっ……うっ……」
「静雅……起きた?」
「りょう……た?……い゛ッ…………!」
「まだ起きなくていいよ。傷が深かったみたいだから…ごめん、こ
んな事になって…」
「違っ………これは僕が自分で……」
「俺を庇ったんだろ?お前は庇われる立場なんだぞ?それなのに…」
亮太は少しやつれて見えた。
ずっと眠れなくて、じっと静雅の様子を見ていたせいか、今になって
眠くなって来たのか、欠伸ばかりが出る。
「亮太欠伸ばかりじゃん…」
「あぁ、ずっと寝てねーからな…それでも、静雅くんが生きててよか
った…もし死んだりでもしたらって思ったら、心臓が止まるかと思
ったんだぞ!」
「ごめん…でも、父さんが家を出ていった理由がわかった気がするん
だ〜、組員は家族だって言ってるのに、指をつめさせるって常識
的におかしいじゃん」
「静雅くん…俺は覚悟してた事だから。静雅くんに怪我を負わせた
時点でもう、取り返しがつかないって思ってた。それ以上に……
こんな痕もつけさせたんだ…命で償う覚悟だって必要かなって」
亮太はとっくに腹を括っていたという。
それを、ぶち壊したのは静雅だった。
「そんなの……嫌だよ。どうして?僕が行ったから、全部僕の油断
がっ」
「それでも…ですよ。」
「なら、あの家を出よう!一緒に出て行けばいいじゃん」
「そんな事したら確実に俺、殺されますよ?」
「なんで?」
「組長の孫を誘拐したって言われるんですよ?自分の立場わかって
ます?」
「…」
「はぁ〜、まずは早く元気になってください」
「知らないっ……僕はそんなの知らない!亮太は言ってたよね?僕
の事我慢してるって…それって…波戸崎のように抱きたいって思
ってるって事?」
一瞬言葉に詰まる。
たしかに、思わなかったわけではない。
だが、それは現実的ではなかった。
自分が主を汚すなどあってはならないのだ。
「そんな風に思いました?俺は女性が好きなので安心してください」
「もし…亮太ならいいよって言ったら?」
「静雅くん…?本気で言ってますか?」
「…」
「…」
コンコンッ、コンコンッ。
ノックがあると看護師が入って来ていた。
「荒川さーん、健診の時間ですよ〜」
二人の沈黙を破るように明るい声が遮ったのだった。
血圧、脈拍、採血をすると、問診票に書いていく。
痛みはあるけど、点滴を通して痛み止めを入れてもらった。
「では、安静にしてて下さいね」
「はい」
コンコンッ。
「今ならいいだろ?」
知らない顔が部屋の前に立っている。
亮太が睨みつけるように視線を外さない事から、組の天敵なのだ
ろうか?
そうなると…敵対の組かもしくは…警察官か…
「私はこう言う者ですが…荒川静雅くん、話をいいかな?」
「すいません、まだ体調が悪いので今はちょっと…」
「君の意見は聞いてないよ。荒川組の雅亮太くん。」
全て知っていると言わんばかり圧力をかけてくる。
「亮太?あのっ、なんの用事ですか?」
「あぁ、簡単な質問だよ。君のその身体にある痕は誰につけられ
たのか…とかね」
「それなら簡単ですよ。僕に薬を使ってあんな事をさせた奴を貴
方達が捕まえてくれるんでしょ?いきなり拘束されてから車の
トランクに入れられたんですよ!早く捕まえてくださいよ!」
「それを聞き来たんだよ?犯人の顔は見たかい?」
「覚えてないですね。意識すら朦朧としていたんで…気づいたら
亮太がそばにいてくれたんです。」
「では、その腹の傷はどうなんですか?」
「それを捜査するのは警察の仕事ですよね?父さんの死を捜査した
人もいい加減な捜査で事故死にしましたよね?目の前で殺された
って言うのに……」
「はぁ?ちょっと待ってくれ…それはいつの事を……」
「警察の杜撰な捜査のせいで僕は……知ってますか?僕は守られる
側の人間なんですって…でも、僕は誰一人守る事もできないんで
すよ…そんな事ってありますか?」
「…」
言っている意味がわからないという表情を浮かべた。
「今日は疲れたのでお引き取りください」
「あぁ、また来るよ」
「…」
出ていくと廊下で電話をかけていた。
静雅の親の事件について再調査をするらしい。
もう、遅い。
波戸崎から聞いた話が真実なら犯人は岩崎組の構成員という事になる。
久喜…確かそう言っていたはず…。




