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君は今日から家族だ!  作者: 秋元智也
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38話

ちょうど静雅や、亮太が臨海学校中にある事件が起きていた。


少し前までおとなしかった、小さな組が突如として反旗を翻し

て来たのだった。


荒川組関連の店に押し入ると暴れ出したり、いちゃもんをつけ

ては喧嘩越しに突っかかる。


街の安全を守るためにも、傘下の店を見回り、そういう奴らを

取り締まっていた。


「今日も多いっすね」

「そうだな〜、なんか嫌な予感がするぜ。昨日も静雅坊ちゃんが

 学校行事中狙われたって話だしな」

「それって、大丈夫だったんすか?」

「あぁ、まぁな…だが、亮太の野郎の詰めが甘いんだよ。帰って

 来たら完全に落とし前をつけさせないとな…」

「それって小指っすか?」

「あぁ、俺らもそうして来たんだ。例外はねーよ。」

「でも、まだ学生っすよね?」

「学生だって同じだ。この世界に住んでる限り失敗は自分の身を

 もって知るってな」

「なんか…俺も気をつけないとっすね」

「ほら、無駄話はいい、行くぞ」

「はいっす」


車に乗り込むと、次の揉めている現場へと向かった。

場所や時間を問わず問題が起きるせいで、警察も出動していた。


何度か警察と鉢合わせる事になったが、こっちは事件の把握をし

たくて動かざるを得ないので、変に勘ぐられても困るのだった。


「おたくね〜、またですか?」

「それはこっちのセリフだっつーの!」

「何を揉めているんだ?」

「それがぁ〜こいつ俺らが最近頻繁に起きてる騒動の原因だって

 言うんすよ!」


警察側も一枚岩ではない。

下っ端あたりはヤクザと聞くと、疑ってしまう人はまだ多い。


「あぁ、そういうことか。おい、上司に電話入れろ。」

「何を言ってるんだ!そっちが問題起こしているくせに」

「はぁ〜、どこの管轄だ?ちょっと待ってろ」

「兄貴〜」

「情けない声出してんじゃねー」


少し待たせるとどこかへと電話をかけた。

その後少ししてから、その警察官の電話が鳴ったのだった。


「はい、いかがいたしましたか?」

『……………』

「いや、それは……ですが…………はい。はい……」

『……………』


何か言われたのか、睨みながら現場の状況を話して帰っていった。

先に警察が到着するとこういう面倒な事が多いのだった。


「おい、帰るぞ」

「へいっ!」


街の治安を守るのも、そこの縄張りを管轄している元締めと相場

が決まっている。

よそもんに荒らされてば待ってみているのはこの業界では臆病者

と言われていた。


すぐに人を送ると沈静化に向かったのだった。





キャンプファイア終盤に来ると、全員での炎を囲ってのダンスが

始まった。


こういうのは苦手な静雅や、伊東はため息しか出ない。

必ず男女でペアになるので相方を探すのが苦手なのだ。


亮太はというと、すぐに女子に囲まれて離れた場所に連行されて

いった。


「こういう時モテる人というのは…」

「伊東くん、それは言っても無駄だよ」

「確かにね、雅くんは全員とでも踊るんでしょうかね…」

「あり得そうだから、ムカつく…」

「あははっ、荒川くんもそうやって思うんだね」

「当たり前だろ、あいつとずっといると、マジで惨めになるか

 らっ!」


真に迫った言葉に隣の伊東は噴き出していた。

すると後ろから笑う声が響いて来た。


「荒川くんも大変なんやな〜」

「波戸崎くん…」

「なっ、何しに来たんですか!」

「あれ?嫌われちゃってる?嫌だな〜、この前チケットあげたじ

 ゃん」

「それは嬉しいけど………一体何を企んでいるんですか!」


伊東の方はいつも警戒しているらしかった。


「今日はちょっと頼み事があってな〜花田さんや、平井さん、

 夏目さんって知ってるやろ?」

「うん、僕らの班だからね」

「そうそう、そこでだ!彼女達がちょっと頼みたい事があるっ

 て言ってるんやけどちょっとええか?」

「彼女達はどこに?」

「離れた場所で待ってるんや。なんかえらい大事な話があるっ

 て言いよってな〜、思いあたる事あるか?」

「…」

「…」


二人は顔を見合わせると、思い当たる事はあった。

ため息を吐き出すと波戸崎の後をついていく事にした。


今、彼女達はお説教を兼ねて先生に見張られている。

だからこそ、波戸崎を伝言に使ったのだろう。

言いたい事は分かっている。

きっと亮太の事だろう。


この旅行中に何か行動を起こすような事はコソコソ話していた。


しかし、思いの外亮太が静雅にそばから離れなかったせいと、

病院につきっきりだったせいで接近するタイミングがないとい

う愚痴だろう。


「それで、彼女達は亮太と一緒にいたいから僕らにしばらく席を

 外して欲しいとでも言うの?」

「まぁ〜そうなんやけど…それだけじゃないねん。俺が荒川くん

 に大事な用事があんねん」

「…?」


少し離れたところでいきなり出て来た強面の男達。

取り囲むように現れると、かたぎの人間とは思えなかった。


「これは悪い冗談じゃ…ないよね?」

「そうやな〜、俺を拾ってくれたお人がな、是非とも荒川くんに

 会いたいちゅ〜んや。まぁ〜少ぉ〜しドライブにでも付き合っ

 てくれるやろ?」

「こっちは遠慮願いたいんだけど…」

「あ〜、残念やな〜、拒否権はないんや。伊東くんには悪いけぇど

 ここでおねんねしててもらうで」


後ろから殴られると地面に倒れた。


咄嗟に逃げようとしたが、掴まれると引き剥がせない。

力強い腕に押さえつけられると即座に口を塞がれ意識が遠のいてい

ったのだった。




炎を囲んでダンスが始まった。

リズミカルな音楽が流れ出して、女子達が押し寄せたせいで亮太か

らは静雅の位置が見えない。


常に側にいるのが護衛で、昨日の事があったせいで、静雅に触れる

のが怖くなっていた。


いつか歯止めが効かなくなったらどうする?

静雅はきっと一緒に暮らして来て、亮太の事は家族としか思っては

いないだろう。


この前部屋での自慰している声を聞いてからじっと見ている事が辛

くなって来ていた。

だからといって、他の誰かに代わるなど絶対に嫌だった。


昨日の失態のせいで、帰ったら小指を詰めろと言われるだろうか?

そうなったとき、静雅はまだ側にいることを認めてくれるだろうか?


それとも…卒業まで待ってもらえるだろうか?

この世界に生きていくと決めてから恋愛なんてのは二の次と思って

いた。


幼い時からこの世界に身を置いているので、いろいろと見てきたし、

知っているつもりだった。


だが、それ以上に腹の探り合いをする汚い大人達の姿が、当たり前

だと思っていた時、彼が来たのだった。


純粋で、自分のことより他人の気遣いができる。

そんな彼に惹かれないはずはなかった。


この世界では女でも、男でも、そう変わらない。

ただの身体の関係や、利害さえ一致すればなんでもありな世界だ。


顔が良ければ、モテるし。

金があればモテる。


それだけの事だった。


信用は金で買うか、弱みを握れ。

この世界で真っ当な事は何もないと思っていただけに、彼の存在が

新鮮だった。


彼の世界で生きたいと思った。

彼には汚いものは見せたくない。

この世界に生きていくと分かっていても、彼にだけは知られたく

ないと思ってしまう。

裏で生きる、そんな自分の手は汚れ切っている。


何人殺したか、覚えてもいない。

この手は守る為ではなく、人を殺す為に存在する。

そう言っても過言ではなかったからだ。





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