35話
昼頃にみんなと合流した。
半日何も参加できなかったのと、海での時間は静雅には許され
なかった。
昨日の事があったせいでもあった。
今日は代わりに浜辺でビーチフラッグや、スイカ割り、ビーチ
バレーなどが企画されていた。
「今日はのんびりしてた方がいいよ」
「そうかな…」
「昨日の事は大丈夫なの?」
「うん…逃げたのはいいけど海に落ちちゃって…」
「あれ?泳げたっけ?」
「うんん、泳げない…」
静雅はあの時も飛び込んで逃げたはいいが、泳げなかった。
上も下もわからず、もがきながら暗い中に吸い込まれていったはず
だった。
そこに掴まれた力強い手に救われたのだ。
後から聞いた話によると亮太が一緒に発見されたらしい。
「雅くんって荒川くんの事、すっごく心配してたんだよ〜」
「…」
「だって、病院にずっと付き添ってて、今日も帰って来たの朝方だ
ったからね」
「そう…なんだ」
「そうだよ!ちゃんとお礼言わなきゃだよ!」
「うん」
素直に礼を言うのはちょっと悔しかった。
あのまま部屋にいればよかったのにと言われるのだと思うと、憂鬱
だったのだ。
「静雅くん?身体は大丈夫ですか?」
噂をすればなんとやら、亮太と目が合うと静雅の側に寄ってきた。
さっきまで女子達とビーチバレーをやっていたのに、今は交代した
らしい。
女子達の視線は、早く帰って来てほしいとじっとこっちを見ている。
「向こうに戻らなくていいのかよ…」
「別に興味ないですから…大事なのは静雅くんですよ」
「昨日は…ごめん。」
「はぁ〜、謝って終わりですか?」
「なっ……何が言いたいんだよ」
いきなりの返しにハッと顔を上げる。
「普通お礼や謝罪は相手の顔を見て言うもんじゃないですか?」
「それは……」
視線が合うとどうしても恥ずかしくなる。
その理由は分からないが、なぜか、大事な事を忘れている気がするの
だった。
「誰かさんのせいで、昨日は海に飛び込むはめになるし、寒い中で助
けが来るまでずっと待たされるしで、散々だったんですからね。ち
ゃんと反省してますか?」
「ごめん…なさい……あと、ありがと……」
「本当に感謝してるならご褒美ください」
「ご褒美?」
「はい…帰ったらお願いを聞いてくれるってのはどうですか?」
「あぁ、まぁ、僕にできる事なら……」
「そうですね〜何をしてもらいましょうかね〜」
嫌味っやらしく言うので、よけいに腹が立つ。
謝るんじゃなかった!
そもそも説明さえしてくれれば、よかったんだ。
説明もなしに縛るからこっちだって余計にムキになったのだ。
もう、話してやらない。
心に誓うとそっぽ向いたのだった。
浜辺での遊びは夕方には旅館の大きな風呂へと入ったのだった。
今日の夜は野外でのテントで寝る事になっていた。
テントはもう張られていて、あとは荷物を持って各自3人組みで
中で寝るだけだった。
「へ〜テントなんて初めてだぁ〜。なんかこんな薄いんだ〜」
「この生地は丈夫な生地でできていて防火でも火の手が回らない
ようにできてるんですよ。それに…雨だって凌げる優れものな
んです。そして〜軽くて〜」
「もう入らないのか?」
「伊東くんはなんでも知ってるんだね」
「いえ、こう言うキャンプが昔父から色々と聞いたので。それに、
父に休みの日は連れて行ってもらったりと、結構アウトドアな人
だったんです」
「そうなんだ〜、僕は海に来たのは二度目…かな」
「前は家族で?」
「う…うん。最後の家族旅行になっちゃったけど…」
「あ…ご、ごめん」
「う、うんん、大丈夫だよ。もう、今は吹っ切れてるし、それに代
わりの家族もできたし…」
「代わりの家族?」
「ほらっ…寝心地を確かめませんか?」
勝手に割入って来ると、静雅の肩を抱き寄せると中に引き込んだ。
引っ張られるままにテントの中に入ると転げるように亮太の胸に収
まっていたのだった。




