34話
人間の体温で温めると言ってもやっぱり限度がある。
寒いのか震え出す静雅を満足させてあげられるわけではない。
亮太自身も濡れていたせいで体温が低くなっているのだ。
気合いで乗り切るにしても静雅の方はそうもいなかない。
「どうしよう…身体をさすっても暖まらない」
何度も何度も皮膚を摩ってやっても寒さは治らない。
いくら温かい季節といえど、濡れたままなのが不味かった。
そんな時、海の向こうから光が照らされた。
「おーい、亮太〜」
声の主は一緒の組の人間だった。
慌てて声を上げようとしてすぐに辞めた。
今の状況は非常に見られるとまずい。
何がまずいというと、今何も着ていないことと、静雅を全裸で
抱きしている事だった。
すぐに服を着せるとまだ濡れていたが仕方がない。
下着までは履かせる余裕はない。
ポケットに突っ込むとズボンとシャツだけ着せる。
あとは自分もズボンを履き、声を上げた。
「こっちだーーー!」
「ん?ここにいたのか!さっさと乗れ!」
「それが、ちょっと問題が……手をかしてくれ」
「お前、生意気な…あのな〜このくらい………はぁ?なんで静雅
坊ちゃんがここに!」
ボートを横付けすると少し距離はあるが飛べば問題ない。
そう思って言った言葉だったが、すぐに否定された。
奥にライトを当てると静雅を背負った亮太が立っていたからだっ
た。
連絡では部屋に置いて来たと言っていたはずだった。
それが気を失って、その場にいるのだ。
慌てないわけはない。
すぐに乗り移ってきた組員の抱かれながらボートへと運ばれ、
病院へと運ばれた。
低体温症…しばらく冷えたままでいたせいで体温が下がり意識
が戻らなかったらしい。
亮太もすぐに毛布にくるまったが、こっちはしっかり意識があ
る。
「亮太〜、どうしてあそこに静雅坊ちゃんがいたんだ?」
「それは……」
「腕に縛られた痕がありました。どこかに監禁でもされてたん
じゃ…」
「そうだな、まずはオヤジの指示を仰ぐか」
「待って……俺から言うんで…待ってください」
「ダメだ。お前は静雅坊ちゃんを危険に晒したんだ。ちゃんと
処罰を受けるべきだと思わないか?組の一大事だって事がわ
かってねーようだからな…」
朝になって、亮太だけが戻って来た。
担当の教員は救助隊を送ると言っていたが、亮太の話でそれは
見送られた。
「どうして連絡の一つも入れなかった?心配したんだぞ?お前
ペアの花田が来た時には、本当にぞっとしたぞ」
「すいませんでした。荒川くんは今病院の方に…」
「あぁ、わかった。俺も今すぐに向かおう。他に生徒は戻りな
さい」
心配で宿前で待っていたらしい。
それから目を覚ました静雅は少し検査を受けたがすぐに合宿に
戻れる事になった。
「荒川くーん、よかったぁぁー、本当に心配したんだよ?あの
怪しげな男の人に何かされたんじゃないかって…それに雅く
んもすごい剣幕で行っちゃうし…」
「亮太が?」
「うん。助けを求めてたら、話を聞いてすぐに飛び出して行っ
ちゃったんだよー!もうそのあと、先生に言って〜………」
伊東くんには色々と迷惑をかけたらしかった。
微かに覚えているのは溺れて意識がなくなりかけた時、誰かが
来てくれて、強く抱きしめられていたと言う事だけだった。
暖かくて、気持ちがよかった気がする。
そして一番不可思議なのは…服はきていたのに。下着を履いて
いなかった事だった。
脱がせた医師からはパンツだけが返却されなかったから聞いた
のだが………
『パンツ?初めから履いてませんでしたよ?最近の子は履かな
いのが普通なんですか?』
聞き返された時の恥ずかしさはなかった。
一体どこに行ったのだろう?
いや、それよりも、なんでパンツだけなかったんだ?
疑問を解く鍵は後日、亮太の部屋で見つかるのだった。




