33話
亮太は目一杯駆け出していた。
さっき人が通ったであろう手がかりを見つけながらの捜索だった。
どうして来たんだ?
なぜおとなしくしておかなかった?
あんな強引な方法をとったというのに、来てしまった。
狙われている張本人が来てしまっては意味がない。
一応全員始末したと思っていたが、一人撃ち漏らしたのか?
まだ捕まっていないといいが…もし捕まっていたのなら…
考えたくもなかった。
死体となって見つけるのだけは避けたかった。
「うわぁっぁぁーー」
いきなり近くで聞こえた声に咄嗟に飛び出していた。
敵の背後に出るとナイフを首に突き立てていた。
ドボーンッ!
大きな水飛沫をあげて何かが落ちていった。
「しずかぁっーーー!!」
後を追うように自らも飛び込んだのだった。
任務なんて今はどうでもいい。
静雅を助ける事が最優先だった。
深く落ちていく静雅を追うように潜って行く。
ガシッと捕まえると身体を引き寄せ真っ直ぐに浮上する。
「ぶはっ……はぁ、はぁ、はぁ、大丈夫ですか?」
声をかけるが全く反応がなかった。
まさかとも思ったが、このままでは流されなねない。
上がれる場所を探すと引きずるように水から上がった。
「静雅くん、静雅くんっ!」
水を飲んだせいだろうか?
水を吐かせようと腹を押す。
気道を確保すると真っ青になった唇を口に含むと一気に空気を
吹き込んだのだった。
「ごほっ…げほっ……けほっ、けほっ……」
一気に空気が肺に入ったせいか咳き込み、口の中から水が溢れ
出して来た。
身体を横にしてやると苦しそうにしながらも数度にわたって吐
き出す。
うっすらと目を開いたがすぐに気を失ってしまった。
濡れた衣服は肌にべったりくっついていて体温をさげる。
「これは不可抗力だ…そうだよな……うん…」
亮太は自分に言い聞かせると自らの服もだが、静雅の服も全部
脱がせたのだった。
有り合わせのもので火を付けるとはよく言ったもんだが、実際
にはむずかしい。
なぜならば、ここは海のそばの岩場にぽっかり空いた場所だか
らだ。
そして何よりここには燃えるようなものは自分たちの着ていた
衣服くらいしかない。
その上に、濡れているし、火を付けるライターすらないからだ。
無線はどこかに落としたらしく今はない。
スマホは部屋に置いて来た。
外部へと連絡を取る方法がないのだ。
唯一、静雅が目を覚ませば一緒に泳いで帰るという方法がある
だろう。
静雅がぶるるっと震える。
寒いのだろうか?
側によると抱え込むように抱きしめたのだった。
寒い時は人の体温で温めるとは言っていたが、確かにくっつい
ていると温かい。
生きているのだと実感する。
「早く起きてよ…しずか……」
祈るように抱きしめた。
何も纏っていない姿で絡み合うようにお互いを温める。
朝まで待つか?
それとも、助けが来るまでなのか…
どちらにしろ、今動ける状態ではなかった。
水量を増しているせいか登るのも、陸つたいに歩くのも無理だ。
上では、先生に連絡した伊東くんが捜索を頼んでいた。
暗い事から朝には捜索隊に出てもらうと言っていた。
組の者は亮太に連絡が付かなくなった時点で急遽久茂へと連絡
がいった。
そして久茂の指示で海岸沿いや、海側からの捜索に切り替えた。
波はあるものの、探せないわけではない。
「あの野郎、手のかかる奴だ。坊ちゃんがいないからいいが、
これで静雅坊ちゃんまで心配させたらどうしてくれよう…」
「ははっ、指でも詰めさせますか?」
「ダメだろ?あいつまだ学生じゃねーか」
「ちげーねぇ」
笑いながらライトで照らしながら探したのだった。




