32話
亮太は一仕事終えたと思い、一緒に回るはずだった女子を起こ
そうとしていた。
すると奥の方から伊東くんの声が聞こえてきた。
「誰かーーー!助けてーーー!お願い、殺されるーーー!!」
不穏な言葉にすぐに動き出した。
伊東くんが来た方向は明らかにコースから外れている。
「だれかーー、助けてーーー!」
いきなりガサガサっと音がして出てきた人物に悲鳴をあげた。
「俺だよ、どうしたんだ!一人で来たのか?」
「違う…荒川くんが……変な黒ずくめの男に……どうしよう、早く
先生に知らせないと……」
「どっちに行ったんだ!俺が行くからいい、お前は静かにしながら
戻っていろ」
あきらかにいつもの亮太ではなかった。
まるで獲物を狩る狩人のような鋭い視線に、一瞬怖くなった。
来た方向を指差すと、崖の手前で逆方向に別れたと言う。
急いで亮太が走り出すと、すぐに崖まで来た。
あとは枝の折れている方を確認すると慌てて降りて行った。
静雅はと言うと、途中足を滑らせながらも一目散に逃げていた。
体力を付ける為に毎晩鍛えている。
夜の真っ暗な森の中でいつも慣らしているせいかはっきり見えた。
少しでも距離を取らなきゃ…
いくら大人の足でも真っ暗な森の中では誰しも目標を見失う。
ましてや条件が一緒なら、慣れている方が有利だった。
「こらぁ〜どこ行ったぁ〜、あのガキすばしっこい奴だぜ。見失っ
たとあっちゃ〜こっちの首が飛ぶだろうがっ!ここで始末しねー
となんねーのによぉ〜」
始末?
それはカタギの人間が言う言葉とは思えなかった。
やっぱりどこかの組の人間だろう。
そして、確実に静雅の命を狙っていると言う事だった。
このままではやばい。
人数を増やされたらすぐに見つかってしまう。
こっそりと隠れながら動くとはいつくばながら移動した。
男が離れて行く。
ホッとすると、少し休憩する事にした。
亮太があんな物を持っていると言う事はきっと、他にもうちの
構成員がきているはずだ。
上手く一緒になれれば助かるかもしれない。
どうやって見つけるかが問題だった。
声を出せばさっきの男が戻ってきてしまう。
だからと言って海にだいぶして、陸伝いに遠回りするという手も
あるが、静雅は泳げなかった。
そうなると、助けが来るまで待つしかないかもしれない。
木の背中を預けるとせっかくお風呂に入ったのに土まみれになって
しまっていた。
もうゴールへと来ている生徒は順々に集まってきていた。
最初に出発したはずの亮太、花田ペアはまだ来ていない。
「花ちゃん。まだ来てないの?まさか途中で抜け駆けしてるんじゃ」
「えーー。そんなの許せない!」
女子には女子の戦いがあったのだった。
とうの花田はというと、草むらでぐっすり眠っているだけだった。
夢のなかでは亮太に迫られきゃっきゃうふふな事をしているのだが、
それは置いておこう。
その頃鬼ごっこをしていた静雅は戻ってきた先ほどの男に見つかって
いたのだった。
「おい、やっと追い詰めたぞ。おとなしくこっちに来い」
「嫌だっ…どうせ僕を殺すんでしょ?」
「まぁ〜仕方ねーだろ?お前はあの久茂の孫なんだからな…」
「別に継ぐとは言ってないじゃん」
「そんなもんどーでもいいんだよ。うちの頭はお前が死んだっていう
事実だけが欲しいんだよ」
「死ぬならその前に教えてよ…誰がこんな事企んでるんだよ」
「まぁ〜もう逃げられねーし冥土の土産に教えてよやるよっ、俺らは
公明会の傘下で岩井組のもんだよ。さぁー観念してこっちに…」
手を伸ばして捕まえようとした瞬間、静雅は真下に飛び降りいていた。
「うわぁっぁぁーー」
上手く行けば逃げれるはず…
泳げないけど、海へとダイブすると水飛沫をあげて飛び込んでいた。
着水した瞬間、上下がわからなくなった。
どっちへ向かえばいい?
衣服が絡まって重い。
息が……苦しい……
あれ、やばいっ、上がらなきゃ…でも、どっちに?
慌てるだけで何もできない、呼吸も…もう続かない。
意識が遠ざかって行くのだけが分かる。
やっぱりむちゃだったのだ。
亮太はこんな事にならない為に、拘束してまで部屋に閉じ込めたの
だろう。
ごめん…こんな事になって。
ごめん、自分じゃ何もできなかった…
亮太…ごめん……。




