29話
あとは静雅を夜に外出させなければいいだけだった。
「今日の夜の肝試し楽しみだね〜」
「あぁ、伊東くん一緒に行こう」
「うん、いいよ。僕は女子と行く勇気なかったから荒川くんがいて
本当によかったよ。二人一組なのは酷いよね〜」
「それは確かに……」
そんな会話をしているとすごい形相の亮太に引き留められた。
「肝試し?行くつもりですか?」
「あ、うん……最近僕を避けてたんじゃないのか?」
「ダメです。今日は大人しく部屋にいてください」
「なっ…いきなり何をっ……」
「そうだよ、雅くん理由もなくそれは酷いよ」
問答無用に言い放つと後ろから女子達が亮太を見つけてかけて来て
いた。
「今日の肝試し一緒に行こう〜」
「いえ、俺は出席にはしてないので…」
「えーー。大丈夫だよ〜私達で出席にしちゃったよ?」
いきなりのカミングアウトに女子達はきゃっきゃっと騒いでいた。
亮太は女子達と行くのか?
そう思うと静雅は腹が立った。
自分は楽しんで僕には部屋で籠もれという。
そんな理不尽を事を聞くなんてまっぴらごめんだった。
「伊東くん、行こう」
「あ、うん。そうだね。」
「静雅くん、今日は部屋から出ない事、分かってると思うが出る
ようなら」
後ろから女子に囲まれながら言ってくる亮太に向き直ると近づい
ていくと、目の前まで来た。
「部屋から出たらなに?そこまで言われなきゃいけない理由がど
こにるんだって?僕がなんでそんな事を聞かなきゃいけないの?」
「言う事を聞かないなら、閉じ込めてでも言う事聞かせるけど…」
「…やってみろよ。亮太に出来る?」
挑発的に言うとすぐに伊東くんの元に戻った。
「荒川くん大丈夫?なんか今日に雅くん、おかしくない?いつもだっ
たらあそこまでは言わないよね?」
「知らね…あいつの我儘はいつもの事だよ…」
「そう…なんだ…」
二人の後ろ姿を睨みつけるように亮太は見送っていた。
「ねー今のいい!閉じ込められたーい!」
「私も〜、雅くんと一緒なら閉じ込めらえてもいいかも〜」
「閉じ込めて欲し〜い」
女子達の妄想は本当に呆れるほどだった。
「実力行使しかないか……」
他の誰ともわからない人間に狙われていると分かっていて、そこへ
と行かせるわけには行かない。
まずは安全な場所に移してから暗闇の中で始末をつければいい。
それも絶好の場所だった。
海辺の少し小高い森の中が肝試しの会場なのだ。
組員も配置した。
あとは狩りの時間を待つだけだった。
お風呂の時間になると一斉に生徒達が押し寄せていく。
お風呂はクラス毎に時間で割り振られていた。
女子は部屋に風呂がついているが男子にはない。
時間に入れなければあとは深夜に入るしかない。
肝試し前にみんな急いで入っていく。
そんな中で、一人の生徒が外へと出ていく。
スマホを握るとどこかにかけ始めた。
「もうすぐ予定の場所に向かいます」
『わかった。こっちはいつでも準備はできている。そっちは疑わ
れない程度に動け』
「はい」
『上手く行ったら…卒業後幹部の席が開くかもしれんな…』
「楽しみにしてます。では、時間なので…」
誰かと話しているのかは誰も分からない。
ただ、わざわざ外で話さなければならないような話である事だけ
は確かだった。




