3話
ぞろぞろと出ていくと、数人のみがその場に残った。
「あの…これはどう言う事ですか?」
「静雅、お前はわしの息子、直茂の忘形見なんじゃ。あの子は
家を出て連絡すら取れなんだ。最近やっと死んだ事を知って
のぅ。せめて孫だけでもと探させたんじゃ」
「僕のおじいちゃんって事…ですか?」
「あぁ、直茂によく似ておる。これからはなんでも言うてくれ
るかの?」
「…まだ、ちょっと混乱してて……」
「仕方ないじゃろう。今日はゆっくり部屋で休みなさい。おい
ヤスんところの倅がおっただろう。静雅と仲ようするように
言っておけ」
「はい、承知しました」
まだ誰が誰か分からないが、敵ではないらしい。
逆に静雅の機嫌を取ろうとこちらを何度も伺ってきた。
これでは休めるはずもない。
部屋に案内されると、六畳の部屋があてがわれた。
タンスも、机もあって、普通に一般的に使うものが揃っていた。
服はサイズがわからないのか、浴衣が何着入っていた。
「これって…部屋着かな?」
ベッドも用意されていた。
もちろん施設のような硬いものではなかった。
「失礼します、入ってもよろしいですか?」
「あっ…はいっ…」
声が上ずると襖を開けた。そこには静雅と同じくらいの年齢の
少年が立っていた。
「え…えっと……」
「雅亮太です。よろしくお願いします」
「えっと、こちらこそ…よろしく…お願いします」
「敬語はやめてください。静雅さんは組長の孫なんですから」
「そっちこそ、やめてよ…僕はそんな偉い人間じゃない」
「そうかな?だったら俺たち友達になろう?」
「うん…」
唯一話しやすい人間ができて不安はいっぱいあったが、少しだ
け気が楽になった気がした。
夕飯は広間に全員が集まって食べるらしく、強面の男達がぞろ
ぞろと入ってきた。
隣には亮太が座ってきた。
「緊張しなくていいよ、ここの人達はみんな気さくな人だから」
「そう…なんだ……」
食事の間もビクビクッと怯えるのを見かねたのか、亮太が席を
立つと静雅を連れ出した。
「ちゃんと食べれた?」
「うん…まぁ〜食べたかな…」
「少なかったでしょ?あの人達は酒も飲むからあのくらいでい
いけど育ち盛りの俺達には足りないよね?行こう」
「どこいくの?」
「いい場所っ!」
そう言ってやってきたのは炊事場だった。
慌ただしく作っていた人が手を止めるとこちらを振り返った。
「永瀬さーん、何かなーい?」
「ヤスんところの坊ちゃん、またですかい?あれ?そっちは…」
「組長さんの孫の静雅くんだよ。」
「静雅坊ちゃんですかい、直茂坊ちゃんの若い頃にそっくりで
すね」
「父さんの?」
「はい、直茂坊ちゃんもお腹が空くといつもここにきていたん
ですぜ」
そういう時、簡単なメニューと言ってオムライスを作ってくれ
た。
食事はいつも和食と決まっているので洋食はでさないらしい。
だが、こうやって訪れればなんだって作ってくれる。
「永瀬さんのハンバーグ美味しいんだぜ?」
「そう…なんだ……」
いつもハンバーグといえば市販品の硬い肉の塊だった。
みんなが揃ってから食べるので汁物もおかずも全部が冷めて
から食べていた。
「あったかいハンバーグが食べれるんですか?」
「あったかいって…焼きたてに決まってるじゃないですか!」
「食べてみたいですっ……」
目を輝かせる静雅を見て、永瀬は笑い出した。
「いつでもきてください。作って差し上げますよ」
「本当ですか!あっ……」
施設ので癖でハッとしてすぐに感情を隠す。
そんな様子を見てなのか、永瀬は静雅の頭を撫でると優しく
笑っていた。