26話
静雅は亮太が夜遅くに出て行ったのを2階から確認した。
「こんな時間に何してんだよ」
文句も言いたくなるように時間だった。
勉強を終えると電気を消した。
やっぱり寝付けなくて起き上がった。
施設では電気代を浮かす為にと夜は電気をつけることを厳しく
制限されていた。
その習慣か、夜でもあまり電気をつけない事が多かった。
最近はたまに自分を鍛える為に腹筋などの筋トレを始めた。
部屋の中で出来る範囲だけど、無理のないくらいでやっていた。
「んっ…んっ…んっ……ハァ〜、こんなんじゃダメだな……」
亮太に心配されない程度には鍛えようと考えている。
休憩すると、再び始めた。
その時に、帰ってきた亮太がドアの向こうで聞いているとは思っ
てもいなかった。
真っ赤に顔して部屋に戻っていく亮太の存在を知るものは誰も
いなかった。
朝、身体を動かしたせいでぐっすり眠れた静雅と、眠れなかっ
た亮太が顔を合わせていた。
「朝から眠そうだな?」
「そうですね…ちょっと色々あって……、静雅坊ちゃんはしっか
り眠れました?。」
「あぁ…少し運動したからな…」
「……そう、ですか…」
「…?」
何か言いたそうだったが、サラッと受け流し食事の席に座る。
みんなで食事を取ると、そのまま学校へと向かう。
今日も家の前に和泉先生の車が待っている。
「すいません。いつも助かります」
「いえいえ、構いませんよ。その為にいるんですから」
「だよな〜、ふぁ〜ふ……」
「また、寝不足ですか?雅くん、少しは自重してくださいね」
「はぁ?別にいいだろ?」
「昨日集金先で、もてはやされてたでしょ?遊び過ぎには注意で
すよ!貴方はまだ学生なんですから」
「はいはい。」
会話の内容から、昨日出て行ったのはお店の集金の為らしい。
そして、そのお店で………
「まさか……」
「は?何もしてね〜からなっ!」
ハッとして横を見て来た静雅に誤解された気がした。
亮太は全力で否定したが、今もまだ疑っているようだった。
昨日眠れなかったのは静雅のせいでもあった。
あの後、部屋に帰ってから眠れるわけもなかった。
あの部屋の中で静雅がシていると思うと、想像が際限なく湧い
てきたのだった。
いっそ開けてしまえばよかったか?
手伝うと言って中に入れば…もしかしたら…
保健室での波戸崎の未遂を見てから抑えが効かなくなって来て
いた。
カーテンを開けた瞬間、目に入った波戸崎の下に抑え込まれた
静雅に一瞬血が湧き上がった。
ベッドの上でキスしている!?
いや、それ以上にどこを触っているんだ!?
目の前が熱くなって、静雅の静止の声がやけにムカついたのを
覚えている。
一緒にお風呂に入って、昔は一緒に寝たこともあった。
今では別々の部屋だが、寝ている時は完全に無防備になる彼を
亮太は知っている。
頬にキスして…そしておでこにキスしたのを思い出す。
身勝手な感情があの時はまだわからなかった。
ただ、触れたい、全身にキスしたい。
そんな単純な気持ちだった。
そして、唯一しなかったのが、唇だった。
まだ子供だった。
今だったらきっと…
この感情は決して出してはいけないものだ。
あの唇を奪っていいのは自分だけだ。
そう思わない日はなかった。
いつか別の誰かに奪われるくらいなら、いっそ先に……
考えて、すぐに妄想を掻き消したのだった。
今日も暑い日になりそうだった。




