2話
可愛げもなく、暗い性格のせいか施設に来てもう2年になる。
誰からも指名される事もなく、ただ日常が過ぎていくだけだった。
施設で威張り散らすガキ大将に目をつけられたせいか毎日嫌がらせ
を受けてはいたが、気にしないようにしていた。
そんなある日、黒塗りの高級車が園の前に止まった。
全員整列し見定めされる。
一番顔色のいい人が気に入られる場合が多いのでしっかりと見定め
られた。
静雅は着替えたあと、髪を拭くと後ろから部屋に入って行った。
今日来た客は普通の両親候補という気がしなかった。
年齢のいった白髪の老人が施設内の子供達を一人ずつ眺めていく。
後ろにはスーツの男が何人も待機していて、養子を探しているよう
には見えない。
ガキ大将はといえば、颯爽と前に立っていたがすぐに素通りされて
いた。
小さい子供達は怯えるようにしていて、施設の従業員は何やら密か
に話し合っている。
静雅を見つけるとすぐに腕を掴むと前へと差し出した。
「えっ……あの……」
「この子です。名前は静雅、荒川静雅。来年中学へ進学予定です」
従業員は静雅の事をペラペラと話していく。
老人と目が合うと、ゾクッとして背筋がザワザワする。
「もうええ…父親の名前は言えるかの?」
「……あ……えっと…荒川直茂です……」
「そうか……この子を案内せぃ。すぐに連れていくがいいかの?」
「はい、構いません。」
その老人が言うと後ろに立っていたスーツの男が札束を取り出して
渡していたのを見るとギョッとした。
明らかに普通じゃない人の元に行くのは困る。
まだ小さい子達の面倒は誰が見るのか?
ここの従業員は時間で帰るし、しっかり面倒を見る気はないのだ。
足元でズボンが引っ張られた。
「お兄ちゃん…いなくなっちゃうの?」
「やだよ…お兄ちゃん、いなくならないで……」
「それは……」
静雅自身、選択権は自分にはない事を知っているだけに、何もい
えなかった。
札束を見たのは初めてだった。
小さい子達の寂しそうな眼差しと、ガキ大将の怨みがましい視線
を受けながら早々と施設を出た。
「あのっ‥荷物は…」
「必要か?大事なものでもあったか?」
「いえ…家族の写真だけは……」
「そうじゃな…おい、後で取りに行ってこい」
「へいっ」
老人の言葉に元気よく答えるドスの聞いた声にビビりながらおと
なしくしている事にした。
高速を走らせる事、小一時間。
大きな和風の門構えの家に辿りついた。
「荒川組?」
「そうだ、今日からここが静雅の家だ。わしらは家族になるんじゃ」
「家族…?」
「そうじゃよ、ここにでいりする人間はみんな家族じゃ。まぁ、中に
入ろうかの」
そう言って老人について中に入った。
門の中には何人もの強面のスーツ姿の人が並ぶと、入った瞬間一斉に
頭を下げてきた。
『組長、おかえりさない!』
「おぉ、でけぇ声を出すな。静雅が怖がるだろうが」
『すいやせん』
「こっちじゃ、来なさい」
「はい…」
勢いの良さに呆気に取られながら中に入って行った。
中はもちろん畳みの部屋で仕切りは襖で遮られている。
「後で部屋には案内させるから、まずは座りなさい」
老人が大広間の一番奥、上座に座ると後ろには何人ものスール姿の
人が続いてぞろぞろと入ってきた。
あきらかに場違いな気がする。
何をされるのかとビクビクしているとぽんっと肩を叩かれた。
「初めてじゃろうが、わしの孫じゃ。これからはわしの次に大事
にせねばならん事を覚えておけ!」
『へい、組長』
「…!?」
全員が一斉に畳に顔を付ける。
何がなんだかわからなかった。