14話
あの後、どうやって帰ってきたのか覚えていない。
亮太の腕のなかでしがみつくように眠ってしまった気がする。
恥ずかしすぎて顔が見れない。/////
どうしてあの時、あんなモノを見たのだろう。
昔、両親と一緒に旅行へ行った時の記憶だ。
本当は忘れていたはずだった。
病院のベッドの上で目を覚ました時にはたった一人になっていた。
そのあと施設へと預けられて、記憶は薄れていったはずだった。
あの時の肉の焼けるような臭いや、悲痛な叫び声。
必死に助けを呼ぶ尚弥の声。
泣き叫ぶ母の声。
全く動かない父の額から流れ出る血液。
どうしてこんな事に…
ただ楽しいはずの旅行だった。
なのに…いきなり横付けされた車。
その窓から出された…方向感覚を失った車。
悲鳴と共に衝撃が走って静雅は車の外に放り出されていた。
木々の枝にぶつかり、気がついた時には枝にぶら下がっていた。
引っかかった枝からもがくと地面に叩きつけられた。
中からこちらに手を伸ばす姿を見ながら意識が薄れて行ったのだ
った。
「どうして…忘れてたんだ……」
思い出した記憶はあきらかに何者かによって引き起こされた事故
であるとしか言いようがない。
昨日の事故を見たせいか、今ならはっきりと思い出せる。
「静雅坊ちゃん、ご飯、食べれますか?」
「…」
「開けますよ〜」
黙っていたせいか亮太が勝手に入ってくる。
「出てけよ…」
「そんな事言わないで、これ。永瀬さんが作ってくれたんですよ」
炊事場の永瀬宏樹さん。
彼はここ荒川組での一切の食事を任されている。
静雅の父親の時代から支えているそうで、最初は下っ端だった彼が
のしあがって行ったらしいのだが、途中の抗争で怪我をしてからと
いうもの、表には出ず、こうやっていつも皆の食事を仕切ってくれ
ているのだ。
この世界に入る前はどこかのシェフをしていたといっていた。
味は格別だった。
匂いを嗅ぐとゴクリッと唾が出てくる。
ぎゅるるるるっ…………
身体は素直だったようで音で現状を伝えていたのだった。
「組長も心配なさってますよ」
「…うん、もう大丈夫だから出てってよ」
「そうですね〜全部食べおわったら出ていきます」
強情なところは昔から変わらない。
諦めると食事を口に運んだ。
確かに美味しかった。
昨日は何も食べずに寝ていたせいか空腹だったせいもあるだろう。
明日からまた学校がある。
この調子では亮太が心配して休ませかねない。
全部食べ終わると布団に潜り込んだ。
食器を持って立ち去るのを感じながらただ、誰とも話たくなくて部屋
に閉じこもったままだった。
食事の時間にも起きてこない。
全員で取る食事はみんなが元気である事を見るためのものでもあった。
組長の孫という立場でいつも久茂の横で食べていた静雅は今日も来て
いない。
後で亮太が運んではいるが、あまり会話らしい会話はない。
「どうじゃった?何か言うておったか?」
「いえ…何も…、ただ事故を見た時に錯乱していたのか尚弥と母親を呼
んでいた事くらいで…」
「そうじゃな…直茂が死んだ事故も犯人が見つかってないんじゃったな」
「事故ですよね?」
亮太の問いかけに久茂は遠い目をした。
「あれは弾痕じゃよ。車に何発かめりこんでおった。それに黒焦げにな
ってはいたが、頭蓋骨に穴が空いておったそうじゃ…」
「それって……」
言わなくても理解できる。
何者かの仕業だという事だった。




