13話
辺りは騒然としていた。
救急車のサイレンとパトカーの音が幾重にも重なって聞こえてくる。
何台も到着すると、次々に運ばれていく。
もう手遅れな者もいるだろう。
例えば…静雅の横に立っていた男性。
カップルで腕を組んでいたが、突如突っ込んできた車に男性だけ引
きずられるように連れ去られたのだ。
ほんの一瞬の事だった。
静雅を引き寄せた後の出来事だった。
地面に千切れた四肢が残っていて、おびただしい血痕が痕を引いて
いた。
そんな現場にいつまでもいる気にはなれなかった。
それ以上に静雅の様子もおかしかった。
事故を目の当たりにして、何かを思い出したのか錯乱しているよう
に思えたからだ。
今は近くの漫画喫茶の中に入っている。
迎えの車には今は来ないように言ってある。
これだけ警察が多いところに怪しげな車を向かわせるわけにはいか
ない。
「もしもし、和泉さん?迎えはいいです。今ちょうど近くで大きな
事故があって…はい、そうです、はい…わかりました」
落ち着いたら出て行こうと考え少し広めの部屋に入った。
今は一人にしておきたくなくてそうしたが、静雅自身落ち着かない
ようだった。
「もう大丈夫ですよ。怖かったですか?」
「…」
黙ったまま頷いた。
少しでも嫌な気配がしたら即行動。
これはこの世界に生きている者なら、当たり前に備わった感覚だっ
た。
静雅にはそんなものはない。
だからそばに亮太がついているのだ。
黙ったまま足を抱える静雅を放っておく事などできない。
「寒いですか?毛布でも持ってきましょうか?」
「…いい……いらない…」
「そうですか、なら…そっち行っていいですよね?」
返事を聞くまでもなく真横に座った。
広いのだから別に横に座る事はないのだが、今はそうしなければな
らない気がした。
寒くないと言いながら震えているのが見てとれる。
怖かったなど、きっと言えなかったのだろう。
肩を抱き寄せると反論する前に頭ごと抱きしめていた。
亮太は自分の胸に押し付けるように抱きしめた。
「強がらないくていいんです。怖かったら怖いって言っていいん
ですよ」
「…そんな事………」
「誰も見てないんですから」
「…」
ぎゅっと服を強く握ったのを見ると我慢しているように見えた。
一瞬遅かったらと思うと、ゾッとしたのだろう。
亮太がいきなり引き寄せたから…
あのまま立っていたら?
そのまま渡ろうと一歩前に出ていたら…
今こうしていられるのも亮太がいたからだった。
今日は一人で伊東くんの家に行く予定だった。
帰りも一人だったらと思うと、確実に死という事実を突きつけ
られた気がしたのだった。




