12話
夕方までゲームで盛り上がると、暗くなる前に帰る事にした。
「今日は楽しかったー、今度はゲームセンターとかでもいいね」
「ゲームセンターかぁ〜、一回行ってみたかったんだよな〜」
「えっ、荒川くん。行った事ないの?」
「うん…そんな余裕なかったし…僕が行っちゃいけないって思って
たから…」
「なら、ぜひ行こう!楽しい事いっぱいしよう!」
「あぁ、そうだなっ!」
予想以上に知らない事だらけであったことが発覚したのだった。
普通だったら誰もが行くような場所にも行ったことがないし、一般
的に知られている遊びさえも知らなかった。
「荒川くん、これからいろんな事を知っていこう!僕が知ってる事
は少ないかもしれないけど、それでも知ってる事はなんでも教え
るからさっ」
「ありがとう。友達っていいな!伊東くんと友達になれてよかった
よ」
こんなに喜ばれるとは思ってもみなかった。
一応、新入生代表スピーチをしたほどの男が知らなすぎる気もした。
「そう言えば、新入生代表挨拶すごかったね。一番優秀って事で
しょ?」
伊東くんの質問に首を振って返した。
「僕は次席…首席合格者の誰かさんが辞退したせいで回ってきたん
だよな?」
「えっ…なら雅くんが満点合格者なの?」
わざともったいぶった言い方をすると亮太の方をみた。
伊東くんは驚きを隠せないようだった。
なんでも満点合格者がでるのは始まって以来らしい。
それなのに、早々に辞退したせいで、余計に惨めな思いをした気
がする。
帰りも駅まで行くと、和泉の車を待った。
駅のロータリー付近は人が多く、いつもごった返していた。
目の前の信号が変わると、一斉に渡り出す。
スクラングル交差点は前後左右から人々が渡り始めるのだった。
そんななかでいきなり大きなブレーキ音が鳴り響いてきた。
キィィィィーーーーー!
ドーーーンッ!
衝突の音と土煙が辺りを騒然とさせた。
いきなり服を引かれ後ろにいた亮太に抱き寄せられる形になった。
だが、その後。
目の前を滑るように通り過ぎていく車が掠めた。
横にいたはずの人間をいとも簡単に巻き込んでいく。
血まみれの現場で立ちすくむと、足が動かなかった。
初めて見た事故現場が昔の記憶を徐々に呼び覚ます。
事故を起こした車はガードレールにぶつかり止まると、ガソリンが
漏れ始める。
気がつくと火が出始めた。
これではいつ爆発するかわからない。
泣き声が耳に入る。
子供の泣き声、そして真っ赤な炎。
車の中から聞こえる叫び声。
尚弥の声と、母さんの悲鳴。
これはいつの記憶だろう。
静雅が全く動こうとしない事に危険を感じたのか亮太はすぐに
静雅を抱き上げるとその場を離れた。
呆然として全く声も耳に入っていない様子だった。
「坊ちゃん、聞こえますか?坊ちゃん。静雅!」
「…」
何度か揺さぶるとやっと視線が亮太を捉えた。
「大丈夫ですか?怪我はないですよね?」
「母さんが…尚弥は……」
「何を言ってるんですか?今がいつかわかりますか?」
何度も揺さぶってから頬を思いっきり叩いた。
「りょう…た?」
「ちゃんと歩けますか?すぐに離れますよ」
「でも……そうだ、警察……いや、救急車を…」
「大丈夫です、落ち着いてください。他の人が呼んでましたよ。
それよりも今は離れて安全な場所に行くのが先です」
ただの偶然なのか?
それとも荒川組の後継者を狙った犯行なのか?
どちらにしろ少し遅かったら危なかった事には代わりはなかった。




