11話
週末になると、和泉に駅まで送ってもらうと、そこで伊東くん
と待ち合わせをしていた。
なぜか、亮太が付いてきたが完全に視界に入れないようにして
いた。
「静雅くん、そろそろ機嫌を直しませんか?」
「…」
「何かやったのなら謝りますから…」
「なんで来たの?」
「それは…坊ちゃんに危険がないか心配だからですよ」
「必要ないよ。もう帰って…」
「帰りません。ずっと護衛で付いていると決めたんです。」
「僕は望んでない。護衛も変えてもらうように言ったはずだけど?」
「どうしてですか!俺の何が気に入らないんですか?」
「…」
ただ黙ると口を閉ざしてしまった。
気まずい空気が流れる中、やっと伊東くんが現れたのだった。
「ごめん、まった?」
「いや、大丈夫さっききたとこだし」
「荒川くん、雅くん、行こうか!」
「えっ…亮太も行くのか?」
「僕が誘ったんだよ、嫌なの?」
「別に嫌ってわけじゃ…」
「なら、行こうか!」
古ぼけたアパートの一室だったが、一人で住むには問題なかった。
「ごめんね、狭くて…」
「平気だよ、僕も昔は狭いスペースに何人かで寝てたし…」
「あれ?荒川くんって兄弟いたの?」
「あぁ…うん、昔はね…今はいないけど…」
「そっか、ごめん。変な事聞いちゃったね」
「うん、平気だから…」
多分死んだと思ったのだろう。
あながち間違いではないが、事実でもない。
大戦型のシューティングゲームとレーシングゲームを出すと、一緒
にやってみた。
静雅はゲームというものがやった事がなく初めてなので、コントロ
ーラーすらまともに操作できなかった。
「あーー!全然ダメじゃん。」
「もうちょっとだよ、筋は悪くないし、大丈夫だよ。」
「俺の一人勝ちですね」
「少しは手加減っ…もういいや、伊東くん一緒にやろうよ!」
「いいけど、雅くんも交代しながら…」
「亮太とやってもつまらないしな…」
どうにも実力差がありすぎて勝負にならなかった。
ゲームを持っている伊東くんもバイトと勉強であまりゲームをやっ
ていないのか、上手い方ではなかった。
「二人とも、狙う的がしっかりしてないからダメなんですよ。狙い
時は少し上で、敵の少し前を撃つと…ほらっ…当たった!」
「凄いねー、雅くん、拳銃とかうまそうだよねー」
「まぁーね」
二人の会話を聞いても賛同なんてできない。
ヤクザなら拳銃は使うだろ?
なにせ亮太の腕には刺青も入っているが擦り傷が無数にある。
身体中は脱がなければわからないが、一緒にお風呂に入ると隠せな
いほどに傷だらけなのだ。
そういう世界に生きているせいなのかもしれないが、やっぱり見て
いると怖くなってしまう。
せめて、静雅の護衛でさえいないければ…
もっと自由に動けるのではないかと思ってしまうのだった。
亮太と伊東くんが楽しそうに話しているのを見ると、どうしても疎外
感を感じてしまう。
「ほんと…自分勝手だよなっ……」
独り言を言うと立ち上がった。
「悪い、トイレ借りるな!」
「いいよ、そこね」
「うん」
元気の無さそうな荒川を見て、伊東くんも亮太もお互い顔を見合わ
せたのだった。
「結局さ〜喧嘩の発端はなに?」
「それが…俺も知らないんですよ。どうしてか避けられるし、話し
てもくれなくなったし、本当に困ってるんです」
「う〜ん、原因がわからないとな〜」
悩んだところで解決の糸口すら掴めなかった。




