10話
亮太が一人で帰るのは久しぶりだった。
いつもなら護衛役として静雅と一緒で、何やら言い合いになり
ながらも少し揶揄うとすぐにムキになって突っかかってきた。
それが面白くてよく、揶揄ったりもしたものだった。
でも、最近はずっと話しかけても全く動じてくれなくなった。
そして、この前、とうとう組長から直々に護衛の解任が言い渡
されたのだった。
「ヤスの倅には悪いと思ったんじゃが、静雅の護衛を和泉の奴
に変更する事になったからの」
「なっ…なんでですか!俺、何かヘマしましたか?」
「それはないんじゃがな、静雅がお前さんを嫌がっておってな」
「静雅くんが?…俺を嫌がる?」
確かに最近の態度を見れば一目瞭然だった。
だが、怒らせるような事はした覚えなはし、ちゃんとフォロー
はしたつもりだった。
「でも、学校ないでも護衛は必要ですよね?」
「それも和泉に任せる事にしたんじゃが…何か不服か?」
「いえ…そんな事は……」
「もし不服なら、自分の行動で挽回してみる事じゃな」
ハッと顔を上げると拳を握りしめた。
「はい。静雅くんに俺を護衛にして欲しいと言わせてみせます」
「それもよかろう。あやつは…わしの後継者じゃからな」
「絶対にお側から離れないつもりです」
あんなに啖呵切ったというのに…
和泉に凄まれるとどうしても逃げてしまう。
年季の差だろうか?
同じクラスだから顔を合わせないわけにはいかないし、同じ家
にいるせいか風呂のタイミングや、食事などが同じ部屋で顔を
合わせる事になる。
視線すら合わせてくれないし、言葉も交わしてくれない。
これではどうやって自分を信用させようかと悩み初めていた。
学校では常に亮太のそばには女子がいるせいで、静雅とゆっく
りと話す事もできなかった。
「今日は、一緒に帰りませんか?」
「和泉先生のところに行くからいい。先に帰っててくれ」
「でも〜待ってるのも退屈ですよね〜?そうだ、ちょっとした
ゲームでもしませんか?」
「本読んでるからいい…」
バッサリと打ち切られた気分だった。
そんな姿を見ていた伊東からいきなり声をかけられたのだった。
「雅くん、大丈夫?荒川くんと喧嘩でもしたの?最近全然話も
してないようだけど?」
「それは………ちょっと食い違いがあって……」
護衛を解任されたなど、言えるはずもなかった。
言葉を濁すと、伊東からある提案がなされた。
「それはありがたい、ぜひそうしよう!」
「わかった、明日荒川くんに聞いてみるよ」
「助かるよ」
「ふふふっ…なんだか不思議だよね。だって、女子に人気の雅く
んが荒川くん相手には全然弱腰なんだもん」
「アハッハハッ‥それは…仕方ないかな〜」
組長の孫だから、なんて言えないので笑って誤魔化すしかなかっ
た。
次の日の昼休み、弁当を広げながら食事をとっていると伊東から
話を
切り出したのだった。
「荒川くん、週末空いてる?ちょっと新作ゲームを買ったんだけ
ど遊びにこない?」
「ゲーム?遊びに行ってもいいの?迷惑じゃ…ない?」
「迷惑なんかじゃないよ。だって友達でしょ?」
「うわぁ〜嬉しい、友達の家に行くなんて初めてかも」
「大袈裟だよ〜」
「僕には大袈裟じゃないよ、だって友達なんて伊東くんしかいな
いし」
「…!」
一瞬戸惑ったが、亮太は言い返せなかった。
「何言ってるの?雅くんも友達じゃん?」
「違うっ……いや、違わないけど、亮太とは……友達にはなれな
いよ」
あれほど仲の良さそうだった関係が一気に変わった理由は何な
のだろう。
こうして週末に伊東の家に遊びに行く事になったのだった。




