104話
静雅が担ぎ込まれた病院は普通の診療以外にもヤクザ向けの、
普通では治療できない、もしくは普通に入院できない患者を
受け持っていた。
もちろん腕はいい。
なぜなら、その筋の連中相手に腕が悪くては即殺されかねな
いからだった。
一般病院に比べて羽振りがいい客ばかりなので、存分に稼げ
ている。
そこに急に運ばれてきたのが、まだ幼い学生だった。
高校を卒業したばかりに事故に遭ったといっていた。
だがどう見てもそれは刺し傷で鋭利な刃物による外傷が見て
取れた。
手の関節も外れており、これでは痛かっただろうと推測できる。
担ぎ込まれた当初は出血が酷く、数分でも起きれていたら死ん
でいてもおかしくない状況だった。
今も、同じくらいの学生が付き添っている。
何やら事情がありそうだった。
やたらと殺気を放つその青年は眠ったままの患者をじっと見つめ
ていた。
まさかとは思うが、死んだら即殺されないよな?
「君、そろそろ家に帰ったらどうかな?」
「…」
「友達は心配なのはわかるけど、ここはね〜付き添いは…」
「死なせたら殺すから…」
青年が立ち上がると真正面から見てもイケメンとしか言いようが
ないくらいに顔が整っている。
これはモテるだろう?
なのに、なぜここに付き添っているのだろう?
あまり患者について詮索をしては命に関わる。
そう思うと医者はそそくさと部屋を出ていく。
看護師に任せて外来へと向かう。
その後順調に回復していった。
目を覚ました時には付き添いの青年が初めて笑った気がした。
ずっと睨みつけるような顔しか見せなかっただけに、眠っていた
彼がよっぽど大切だったのだろう。
大切?……いや、まさかね…
しばらくは寝たきりだったが、傷はもう塞がっていて、動く分に
は問題なかった。
院内を歩行器を使いながら歩く姿を見ると横には必ずあの青年が
付き添っていた。
支えるというより、抱きしめるような姿を何度も目撃した。
治療費は荒川久茂からたんまり貰っている。
いい、患者だった。
自分で歩けるようになる頃には、往診に来た看護師が大慌てで駆け
込んできた。
「8号室の患者さんが!」
「あぁ、彼ね。付き添いの青年イケメンだよね〜」
「そんな事より、いないんです。」
「散歩でも行ったのかな?」
「違いますよ!荷物も全部ないんです!」
「…!?」
荷物もと聞いていきなり椅子から立ち上がった。
病室に向かうとそこには誰もいなかった。
ベッドも冷たい。
荷物が入れてあるロッカーも空っぽだった。
今日はあの青年も見舞いに来ていない。
あの青年は毎日にように来ては付き添っていた。
夜に帰ってはどこからか夜中のうちに忍び込むと彼のベッドに
寄り添っていた。
当直の看護師の話ではあまりに仲睦まじいのでそっとしておい
ておいると言っていた。
「まさか………すぐに探すんだ!」
「はい!」
看護師に言うと、院内を隈なく捜索させたが見つからなかった。
仕方なしに保護者へと連絡を入れたのだった。
「すみません、えーっと、こちら吉野医院です。荒川静雅さんの
事でですね………えーっと…」
「何かあったのかの?」
「いえ……えっと、いなくなってしまって……もちろん探してい
るのですが……荷物も無くなっていてですね…」
「あやつめ、連れて行ったのか……あぁ、構わん。支払いは良い
値で支払おう。請求しておいてくれ」
「えーっと、良いのですか?」
「かまわん。いつもついていた奴が連れていったんだろう。好き
にさせればいい」
寛大な意見に命拾いをした気分だった。
この繋がりは医院長である自分しか知らない。
看護師は普通のいたって平凡な一般人なのだ。
「もう探さなくていい。退院手続きだけしておいてくれ」
「ですが、まだ完治したわけでは……」
「良いと言っているんだ!早くしなさい」
「はい」
納得していない顔だったが、これはこれで良いのだろう。
今日も何事もない事を願いながら診療に向かうのだった。




