103話
静雅が運ばれた病院では緊急の手術が行われていた。
出血が多く、刺した場所が悪かったらしい。
顔色も悪くなっていって病院まで保つのかと言われるほどだった。
和泉先生の応急処置はあったものの、あとは本人の体力次第だと
言われた。
急遽輸血パックを取り寄せると大慌てで運ばれていく。
「すいません、O型の輸血出来る方いますか?」
慌てるように走ってきた看護師に聞かれるが、亮太は血を差し出
す事もできない。
代わりに和泉先生が手を挙げると中に入っていった。
「少しでも罪滅ぼしですかね…」
そう言っていた意味はわからないが、ありがたいと思ってしまう。
実際、輸血が足らなかったのは事実だった。
こんな事なら組員を何人も殺すべきじゃなかった。
血だけでも取っておけば良かったか?
いや、そもそもこんな事態になっているなんて思ってもいなかった。
久茂を送ってその足で静雅を連れ出す計画だったのだ。
それが、こんな事になるなんて…。
手術は無事終わると病室に運ばれていった。
「静雅くんは、大丈夫でしょうね?」
「分かりません。本人に体力次第だとしか…まだ危ない事には変わり
ないですから…」
「助かったんじゃないのかよ!」
「そんな事言われましても…傷口は塞ぎましたし、出血も収まって今
は自然に治っていくのを見守るしか……」
「なんで……こんな……」
力なくその場に崩れる亮太に、さっき出てきた和泉が寄り添う。
「元気を出しなさい。まだ死んだわけではないでしょ?」
「だけど……どうしてこんな事に……」
「雅、お前が裏切ったからだろ?幹部連中はお前の裏切りを知って静雅
をお前の代わりにしようとしたんだよ。雅、お前も覚えているだろ?」
前に組を裏切った組員の末路。
それは恋人を攫って皆んなでまわしたあの時の事を言っている。
薬でおかしくなった女をボロギレのようになるまで犯し続けたのだ。
組員が気づいた時には冷たくなった彼女と一緒に東京湾の中に沈められ
たのだ。
それを一緒に見ていたはずだった。
「あれは………まさか静雅くんも?」
「そうだ…まぁ、今回は未遂だがな…ロープを解いて自分で刺したんだ。」
「…」
「誰にも触れさせてない。自分の純潔を守ったって事かな?命とどっちが
重かったんだろうな?」
そう言われると、生きてさえいてくれたら…それで良かった。
自分が死んでも、静雅だけでも生きてさえいれば…。
余計に虚しくなってくる。
自分だけが生きていて、大事な人を失うなんて…。
『卒業したら…復讐をやり遂げたら俺に静雅くんをください。静雅くんを
抱きたい…ずっと好きだったんです。地位も何もいらない…静雅くんが
欲しい…静雅くんさえいれば組も全て裏切ってもいい。何もかも投げ出
しても構わない』
あの時の気持ちは間違っていない。
紛れもなく本気の気持ちだったのだ。
もし、静雅を亡くすようなことがあったのなら…どこまでもついて行こう。
一人で逝かせたりはしない。
そばにいるって言った限り、その誓いは守ろうと思ったのだった。




