102話
卒業してしまった友人を久々に訪ねに伊東は荒川組の屋敷へと
訪れていた。
出てきたのは体格のいい強面の男達だった。
「あの〜荒川くん‥和泉先生いますか?」
「和泉か?ちょっと待ってろ」
内心ヒヤヒヤしながら待つと、学校を辞めてしまった和泉才華が
顔を出したのだった。
「久しぶりですね〜、元気でしたか?」
「はい、あの時はありがとうございました。応急処置が良かった
って言われました。一年留年しちゃったけど、無事退院できた
ので、お礼をと思って」
「お礼ですか…そんな事言われる立場ではないんですが…良かっ
たですね?」
「はいっ……あの荒川くんって番号変わったんですか?繋がらな
くて…それに雅くんも…」
その瞬間、周りの視線がキツくなった気がした。
すぐに和泉先生が人差し指を口の前に立てたのでそれ以上は聞け
なかった。
「そうだ、この近くに喫茶店ができたんですよ。ご一緒にいかが
ですか?」
「でも、教師と生徒は……あ、もう違うんでしたね」
「はい、ですからただの友人という事で」
少し歩くと和泉先生の顔はこわばったまま黙って歩いていた。
突然口火を切ると出てきた言葉に伊東の方が言葉を失ってしま
ったのだった。
「すいません。伊東くんには言いにくい話なのですが…静雅坊
ちゃんは、先日亡くなりました。」
「…」
「組の ちょっとしたいざこざだったんですが…」
「…」
「しばらくは順調に回復したんですが、急に悪化してしまって」
「…じゃ……雅くんは……」
「後を追うように…だから言いずらかったんです。」
沈黙が流れるなか、お店の前に着いたがなかなか入る気にはな
れなかった。
「今日は‥これで帰ります」
「そうですか。わかりました。気をつけて帰ってくださいね」
「はい…失礼します」
伊東はどうやって家に帰ってきたのか覚えていないほど動揺
していたらしい。
「うぅ………どうして………」
あの日、また来ると言って別れてから全く連絡が途絶えてし
まった。
卒業式には伊東は参加できなかった。
やっと退院して連絡を取ろうとしたが、全く通じない。
そして、やって勇気を出して家に来たのだが…聞きたくなか
った。
知りたくなかった。
あんなに元気だったのに。
二人がお互いを想っているのは見ていればわかる。
それでも、認め合わないのが不思議だったが、雅くんの恋を
応援すると決めたのだから頑張って欲しかった。
せめて幸せになってほしいと思っていた。
なのに…こんな結末を聞きたかったわけじゃない。
出席日数が足りなくて再び3年をやる事になった伊東は明日
から再び3年の教室に行く事になる。
二人との思い出の詰まった学校生活だったのだが、大事な友
人をいっぺんに無くしてしまったのだった。
「明日からまた一人かぁ〜……」
あの時話しかけてくれた荒川くんがいたから楽しくできた。
何も知らない事だらけで純粋な彼と話す時間は本当に楽しかた。
涙が拭いても拭いても湧き出てくる。
嗚咽混じりに咳き込みながら、その日は寝るまでずっと止まら
なかったのだった。




