99話
何度も拘束され転がされた。
「何度も言ってますが、こうなったらおしまいですからね!」
「くっ……なんでだよ!少しは加減しろって…」
「敵が手加減してくれるんですか?全く貴方と言う人は…」
「亮太ならどうするんだ?」
「俺だったらですか?ロープだったら緩めますね。手錠なら簡
単ですね、抜ければいいんですから。」
「抜けるって簡単じゃないだろ?」
「簡単ですよ」
すぐに解くと自分の手元を見せた。
「ここをこうやって思いっきり引っ張るんです」
「痛くないのか?」
「もちろん痛いですよ?でも、殺されるよりはいいでしょ?関節
で外しやすい場所はまずここをこうやって……」
ロープであっても一緒だ。
上手くやれば隙間ができる。
そこで抜け出せば拘束は解かれるのだ。
あとは、その後どう動くかにかかってくる。
『ですが、気をつけて下さいね。これは最後の手段ですから。何
度も外していては腕が持ちません。それにはめ方も知らないの
に、外しっぱなしはダメですからね!』
まるで親の説教みたいに何度も言われたっけ…
床の間には日本刀が飾ってある。
走って間に合うか?
いや、多分油断している今ならいける。
ボロボロの衣服は隠せるほどではない。
かろうじてパンツ一枚という情けない姿だったが、睨みつけると
息を吐き出した。
「あぁぁっぁぁぁーーーー!!」
大声を出すと気合を入れる。
自分自身に…一気に引っ張ると痛みで全身が硬直した。
が、次の瞬間走り出した。
咄嗟に捕まえようとしてくる組員を避けるとまっすぐに床の間へ
行く。
脇差しの方を掴むと鞘を床に投げ捨てた。
「坊ちゃん大人しくしてて下さい。すぐに気持ちよくなるだけで
すから」
「触るなっ!僕に触るならっ……」
「待ちなさい!それは……」
「坊ちゃん……」
喉元に歯を持っていくと首筋に当てる。
少し触れたくらいだったがチカッと痛みが走った。
生暖かいものが垂れるのを感じ入ると多分切れたのだと知る。
慌てる組員を見るとやっぱり殺すつもりはないようだった。
それもそうだろう、組長の不在に唯一の孫を殺したとあっては、
自分の立場も、命すら危ぶまれるからだった。
「僕が死んだら貴方達はどうなるんですかね……」
「坊ちゃん、まずは話を聞きますからそれを置いてください」
「嫌です!置いたら僕を捕まえる気でしょ?」
「それは……」
「ここで死んだら全員終わりですよね……なら、いっそ終わらせ
ましょうよ」
持っている手に力を込めると振りかぶると自らの腹に刺したのだ
った。
もし、亮太がやってくれたのなら、もう思い残す事はない。
復讐を代わりにしてくれたのなら、もう、何もいらない。
伊東くんには何度も言われたけど、夢なんて持つ資格はないんだ。
だって…僕は人殺しなんだから…。
自分の手を汚さずに、こんなあさましいことを考えていたのだから。
どんなに詫びてももう戻らない。
なら、自分も地獄に落ちてもいい。
だから、家族の復讐をやり遂げて…見届けてから死にたかった。
亮太には褒美になんでもするって言ったけど、これでは本当に裏切り
行為だ。
「ごめん……りょ……た…」
自分のやった事は理解している。
流れ出る温かい血の匂いはカッとなった頭を冷やすには十分だった。




