9話
授業の終了を告げるチャイムが鳴ると生徒達は各自部活に励む者そ
して、そのまま帰宅する者、次々と教室から出ていく。
静雅達も帰宅部らしく日誌を書き終えると鞄を持った。
伊東くんはバイトの為に先に帰って行った。
亮太はというと、女子に囲まれながら楽しそうにおしゃべりしてい
た。
もう完全にハーレムじゃねーか!
「はぁ〜。結局ぼっちなのは僕だけじゃん」
日誌を持つと職員室へと向かう。
教室を出るとそのタイミングで亮太は女子に手を振ってこちらに歩
いてくる。
「なんだよ…別について来なくていいのに…」
「これが俺の仕事だし」
「仕事………あぁ、そうだよな。友人…じゃないもんな…」
静雅は自分で言っておいて心に棘が刺さった気分だった。
一番身近にいるけど、友人じゃない。
一緒にいるのも、毎回どこに行くにも付き合ってくれるのも全部仕事
だからという一言に片づけられるからだった。
「そんな悲しい事言わないでよ。ちゃーんと、友人だって思ってます
よぉ〜?」
「仕事だろ?いいよ、教室で待ってろよ」
「拗ねないでよ!静雅くーん!」
茶化して揶揄うのも全部仕事だから…
そんな風には思いたくないのに、さっきの言葉が頭から離れなかった。
帰り道でも、横に並んで歩いているのに他人行儀で、いつも車道を歩く
亮太に自分は常に守られる側なのだと思い知らされる。
それからは亮太に話しかけることをやめた。
もう、関わってほしくない。
そう考えてしまうほどになっていた。
ちょうど集会があった後なのか、帰ったら何人もの組員が出てきていた。
静雅を見ると全員が各々頭を下げていく。
「静雅、帰ったのか?」
「おじいちゃん…、うん…ただいま」
「おかえり。どうだ、茶菓子があるが食べるか?」
「うん…」
元気のない静雅を気にかけるように話をしようと努力してくれる。
いつも誰からでも怖がられる久茂だったが、静雅の前ではただの祖父で
しかなかった。
「何か嫌な事でもされたのか?雅の倅になんでもいうといい。あいつが
解決してくれるからな…昔からよくできた奴じゃからな…」
「その事なんだけど…護衛を変えてくれないかな?」
「なんじゃ、喧嘩でもしたのか?」
「うん…そうじゃないけど…一緒にいたくないんだ…」
「う〜ん、一番歳も近くていいと思ったんじゃながなぁ〜、わかった。
代わりを学校に入れておこう」
「うん…ありがとう」
これで亮太は仕事していてのおもりからも解放されるだろう。
一緒にいると、比べてしまい情けなくなる。
こんな思いはしたくなかった。
多分、亮太だってそう思っているだろう。
自分より劣る人間を守るなどしたくないはずだ。
ましてや施設育ちの人間なんて信じられるはずもない。
数日はそのまま亮太と一緒に学校へと通ったが、いきなり保険医から
呼び出しを食らった。
一体何事かと思って向かうとそこには亮太の姿もあった。
「あの〜失礼しまーす」
「あぁ、君が荒川静雅くんだね。私は和泉才華。ここで保険医をして
いる。これからはなんでも相談してくれるといいよ。帰りはこちら
にきてくれれば私が送っていくから待っててくれるかい?」
「えっ…送ってくって…?」
「あぁ、言ってなかったかな?荒川組構成員、和泉才華だとね」
「あっ……」
久茂の言っていた亮太の代わりだった。
保険医という形で学校の中に入ったらしい。
「雅くん、君はもう帰っていいよ」
「なんでですか!俺が静雅の護衛のはずですけど?」
「君はもういいって言われたんだよ。組長から聞いてないのかい?」
「それは…でもっ…、一番近くで守れるのは俺しか…」
「組長の命令だ。行きなさい」
渋々と言った顔で引き下がったのだった。




