1話
施設での暮らしは楽ではない。
施設内でも上下関係はあって、おやつなどみんなで揃って食べる
食事以外はほとんどが取り合いだった。
「俺が食べる奴に手を出す奴はぶん殴るからなっ!」
偉そうに威張り散らすのはこの施設での最年長の青年だった。
恰幅がよく、施設育ちとはかけ離れた体格だった。
たまにこの施設には子供が欲しくてやってくる里親候補がくる。
その青年はもう後がないのだ。
施設にいられる年齢は様々だが、ここでの限界がある。
それを過ぎれば出て行かざるを得ない。
施設出の青年には働き口が少ない。
なぜならば、施設で育つような子は手癖が悪いと思われがちだっ
たからだ。
なので早く里親に見初められて出ていきたいのだ。
あまりにガリガリだと、誰も選んではくれない。
それは誰でも分かってはいるのだが、何分食べるものにも限度があ
った。
配られるもの以外には、なかなか手に入らない。
こうして仲間の分を取ってしまわない限りは最低限の食事しか与え
れることはないのだ。
「おい、そんなところの座ってんじゃねーよ、どけよっ!」
「うわっ………うぅ……うわぁっぁぁぁーーん!僕の事蹴ったぁっぁ」
まだ幼い子にとっては蹴られただけでも痛いし泣き出す子は多い。
「うるせーよ!黙れよ!こんなうるせーところ早く出たいぜ…」
泣く子の側に行くと抱き寄せた。
「大丈夫、すぐに痛く無くなるからな…痛いの痛いの飛んでけ〜」
「お兄ちゃん……グスッ……」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんがついてるから…」
静雅はかつていたはずの弟を思い浮かべるとつい施設でもおせっかい
を焼いてしまう。
生きていたらこのくらいだろうか…と。
するといきなり頭上から水が降ってきた。
バシャッ…
「えっ…」
「おっと、手が滑った…汚いネズミは少しは綺麗になったんじゃねー
か?」
「…」
「…お兄ちゃん……」
「大丈夫だよ、着替えてこようか?」
「…うん」
周りも見ているだけで誰も止めない。
イライラしているのか、静雅の背中を思いっきり蹴ると出て行ってし
まった。
痛みを堪えながら立ち上げると小さい子を連れて部屋へと戻る。
まだ自分ではうまく着替えられないので着替えを手伝う。
自分も着替えると久しぶりに園の前に黒塗りの高級車が止まった。
さっきの青年はそれを出迎えるように門の方へと向かっているのが見
えた。
「僕には関係ない…さぁ〜行こうか?」
「うん…あんな奴早くいなくなっちゃえばいいのに…」
小さい子達にとってはそう思うだろう。
だが、現実は違う。
この年齢まで売れ残っている理由は……
客が来ると全員が整列する。
静雅も例外ではない。
まだ髪も濡れていて、人前に出るのは躊躇われた。
「先に行っておいで」
「お兄ちゃんは?」
「僕は…後で行くから…」
誰がきたかは知らないが、大体は小さい子を引き取っていく事が多い。
静雅は今年で小学校を卒業し中学へと入る。
この年は反抗期も多く難しい年頃とされているのだった。