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|幕間|:メアリー・アーリンストン①

私はどうやら記憶喪失と云う奴らしい。


らしいというのは、生まれてからある時までの記憶がすっぽり抜け落ちてるのだ。


判るのはこのケロイドになった顔と養父と養母が居たという記録のみ。


出生届も無く、どこで生まれたかも、ましてや親の顔なんて知らない。


物語にあるような毛布に包まれ赤ちゃんポストに入れられていた、名前も養父達につけてもらった……らしい。


なんせ記憶がすっぽ抜けているのだ、身を寄せた施設の話じゃ私は火災現場より助けられた、そのせいで私の顔の左頬から後頭部にかけてケロイドになっていて頭は髪の毛も生えない。


施設の子はそんな私を恐れ、私も彼らの目が怖くなり避け続けた。


いつしか私は笑わなくなり、悲しむことも無くなり、時折疼くじくじくとした痛みと生きていた。


そうして15歳になった私に転機が訪れた。


施設の支援者をしている人が施設を訪問してきたのだ。


「君が件の少女か…………ふん、まあ使えるようになるか…」


そうして私は、別の施設へ連れて行かれた。


その施設には同年代であろう子供達が集められていた。


皆同じ部屋でベッドが一つずつ与えられている。


「君達は身寄りも戸籍も何もない、故に死んでも誰も悲しまない、悲しいよなぁ…恨めしいよなぁ…それに治らない怪我をしてる奴もいる、だが俺なら救ってやれるぞ」


皆の前に現れた男はそう言って液体の入った注射を、隣にベッドに寝て居た少女に打ち始めた。


するとその少女は痛みで呻いたのが噓のようにおとなしくなり眠りに落ちた。


「どうした…あぁそうか、お前もこの痛み止めが欲しいのか。痛いもんなぁ火傷は」


そう言ってニヤニヤと笑い男は私の体へ別の注射を刺した。


「————っつ!」


薬液が注入されると疼く痛みは消え体が軽くなり意識が落ちる。



◇◆◇◆

それから数日後、私はこの施設でひたすらに戦闘技術を叩き込まれていた。


元々勉強の覚えが良かったのもありぐんぐん戦闘技能を吸い込んでいった。


(頑張れば頑張るほどあの薬が貰えるから…)


もっと、やらなきゃ。


もっと、覚えなきゃ。


もっと、殺さなきゃ。


でないと…



でないと……



「私が消えてしまう」



◇◆◇◆

それから2年経ち私は面白半分で渡された頭巾を身に着けへんてこな日本語とイントネーションでその組織の私兵となっていた。


この二年で私は6言語(日・英・露・中・独・仏)の取得をし様々な学業を修め、世界各地で組織からの連絡で暗殺家業を行っていた。


「メアリー今度はJaponのガキの暗殺だ」


「ガキ?どうしてそんなヤツを?」


「ボスのお得意様からのウチの組織最高峰の暗殺者を、と言った直々のご依頼なんだ、文句を言わずさっさと殺して来い」


「わかった、道具はいつもの所か?」


「あぁそうだ」


「了解だ、任務に移る」


通信を切った私は座席を立ち道具の受取場所へ赴く。


今思えばその任務が最後になるとは思ってなかったが…



◇◆◇◆

「というのが事のあらましだ」


私は今任務に失敗したのに何故か豪華なナイトドレスを着せられていた、意味が分からない。


「でもさーメアリーおねーさんさ、顔の傷は最初から無かったよね?」


そんな突拍子も無い事を深い青の髪色をした冬華と名乗った少女が言い出す。


「そんな訳ないだろう?」


「いやいや、ほんとに無くなってるよ?」


「はい、これ手鏡です」


そう言われピンク髪の春華という優しい雰囲気の少女に鏡を手渡される。


「あっれぇ…ほんとだ…」


今まで顔の火傷の為鏡を避けていたが手渡された鏡には綺麗な顔に戻った私の顔がそこにはあった。


髪の毛も少量ではあるが生えてきている。


「多分優希のお陰ね」


彼に一番信頼されている耀と紹介された芯の強そうな彼女が答える


「あのガ…上凪の?」


「うん、おにーちゃん回復魔法が使えるからね~」


「私も以前、助けてもらいましたし」


「驚いた…ここまで治るものなのか…」


骨折などはそこに骨があるので治るとは思っていたが…死んだ細胞や髪の毛まで治るとは思ってもいなかった。


それにどこか頭がクリアーになっている、今までもやがかかっていた感じだったのだがやたら思考がすっきりとしている。


(あぁ、そうか治療薬と呼ばれたあれに麻薬を盛られてたのか…)


あの組織はやるだろうなぁ……あの薬投与され過ぎて死んだ子も居るし、そう考えると納得できてしまう。


「それで、メアリーさんはこれからどうするんですか?」


「そうね…このままじゃ私元の組織に狙われちゃうでしょうね」


「じゃあ、おにーちゃん頼ろう!」


「上凪を?」


「あれでも優希は頼りになるし、何かいい案出してくれるでしょ」


「そんなんでいいのか…」


「私達は優希を信頼して甘えてるし、優希も私達を信頼して甘えてくれるからね」


「とても素晴らしい関係なんだな、私には縁が無い物だがな」


「まあそれは今後のメアリーさん次第だね」


「それは一体…どうゆう?」


追及しようとしたとき、私達が使っているドレッサールームの扉がノックされた。


「お嬢様方、お着替えは終わりましたでしょうか?」


ばあやと呼ばれた女性が入ってくる。


「はーい、終わりました~」


「準備万端です!」


「じゃあメアリー行きましょうか!」


そう言って耀は私にウィッグを被せると丁寧に整えていく。


「はい、OK!じゃあ皆で優希を驚かせにいこー!」


「「おー!」」


春華と冬華が元気に手を上げる。


「メアリーおねーちゃんも一緒に!」


「そうです!メアリーさんも!」


「今は難しい事は忘れて楽しみましょう!じゃあもう一度!」


「「「いくぞー」」」


「「「「「おー!」」」」」


今度は全員で手を上げるのであった。

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