第27話:酒場の恋とエアリス
「優希様、少しよろしいでしょうか?」
「あい……」
夕食会で貸し切った街の食堂にて俺はエアリスに呼び出されていた。
「優希様、あれは何でしょうか?」
エアリスの促した先には俺の打ったナイフを見てだらしのない笑みを浮かべて、周りの女子から聞かれた事に半自動で答えている風魔さんの姿があった。
「えっと……ゴンさんが飲み過ぎて、理事長がシド様と2者面談があるからという事になって、風魔さんに何処を見学に行きたいか聞いたら、工房が良いと言ったので……」
「それで?」
「工房長に乗せられてナイフを打ちました……」
俺が事のあらましを話すと、想像と違ったのかキョトンとする。
「それだけですか?」
「うん、それだけ」
「デートをしたんじゃ?」
「いやいや、風魔さん男嫌いみたいでさ、何かに熱中してる時なら大丈夫そうなんだけどそれ以外は駄目みたいなんだ」
「そうなのですか……、何か思ってたのとは違いますね……(ブツブツ」
顎に手を添えてブツブツと考え込み始める。
(まぁ、あのだらしない顔を見ればそう思っても仕方ないか)
「作戦変更ですわね……(ボソッ」
一体何をするつもりなんだ、というか女子達が迎えに来たぞ。
「上凪さん、エアリスちゃん持って行っても大丈夫?」
「うん、連れて行ってあげて。少ししたら戻ってくると思うから」
「「「はーい……」」」
直立不動のまま女子三人に運ばれて行った。
「あ、あのぉ……勇者様?」
今度は何だろうと思い振り返ると同級生と同い年齢くらいの少年が立っていた。
「えっと……君は?」
「は、はい! 俺はこの酒場の息子でトラルといいます!」
おもいきりぺこぺこされる、聞くとこによるとなんか俺のファンらしい。
「へぇ、じゃあ君は次男なんだ」
「はい、兄が城勤めで勇者様と一緒に邪神討伐に向かったんです! その雄姿を兄から聞かされる度にいつかお会いできるのを楽しみにしていたんです!!」
「あー幻滅しただろ?」
先程エアリスに詰められている姿を見れば情けないと思うだろう。
「いえ! 母さんが『ああやって女性が男の舵取りをしている家庭はいい家庭だ』って言ってました!」
「うぐっ……いや、間違いないな……」
苦笑いをする、だがトラルは変わらず目を輝かせている。
「それでなのですが! 勇者様に聞きたい事が!」
「あ、あぁ……俺で答えられる事なら……」
俺が了承すると途端にもじもじし始める。
「あ、あのですね……実は……」
なんだこの告白してきそうな雰囲気は、周囲の男子も手を止めて見てるじゃないか……。
「女性に好かれる秘密を教えてください!!」
「「「「「!?」」」」」
男子達が全員こちらに振り向く、そして何故か目が爛々としている。
「そうだな、上凪のモテる秘密……知りたいよな……」
「上手くいけば、ハーレムが……」
「馬鹿だなぁ……、お前彼女の1人も居ないくせに高望みするなよ……」
「うるせーお前はどうなんだ?」
お酒が入って無いのに騒ぎ始める、モテたがりの男子にとっては死活問題っぽそうだもんな。
「それで、どうして知りたいんだ? 気になる人でも居るのかい?」
俺がそう聞くと顔を真っ赤にして黙り込み、そして小さく頷く。
「ちょっとトラル! 勇者様が来てるならおしえ……てひゅ!?」
そんな中、誰かが階段を上がってきた。その直後、何故か変な悲鳴を上げる少女、恐らく彼女がトラルの好きな子なのかな?。
「なんか、固まってない?」
すぐに動き出した彼女はその場で身だしなみを整える、確かに可愛い子だし気立ても良さそうだ。
「あ、あの! 私サミュと申します! あの、好きです! お嫁さんにして下さい!!」
顔を真っ赤にした彼女がパニックになりつついきなり爆弾発言をする、しんと食堂内が静まり返り、何とも言えない空気が漂う。
「あ……あのっ……わた、わた……」
突如出てしまった言葉に、目に涙を浮かべおろおろする。
「あー……ごめんね。身分と立場上、お嫁さんを勝手に増やす訳無いはいからさ……」
頬を掻きつつ視線を向ける、エアリスもこちらを見て頷いている。
「そう、ですか……ですよねぇ……」
非常に残念そうな顔をする、それと同時に大粒の涙が零れて床を濡らしていく。
「それに……」
トラルの方へ視線を向けると真っ白になった彼がそこにいた。
◇◆◇◆
「何と言いますか……大変可哀想な事になってしまいましたね……」
「そうだな……」
サミュちゃんの暴発告白から気まずくなり、俺は早々に食事会を離脱してしまった。
今はついて来たエアリスと鐘楼に登って、互いにグラスを傾けている。
「ですが~、優希様がああしてきっぱり断るの、珍しいですわねぇ~」
「エアリス、酔ってる?」
「いえ~酔ってませんよ~」
すり寄って来るエアリスを受け入れ頭を撫でる。
「んふ~久々の優希様ですぅ~」
エアリス、今日は酔い覚まし使ってないな?
「仕方ないなぁ……」
苦笑いしつつ俺も撫でる手を止めない、いつの間にか綺麗な満月が出ていた。




