第64話:ジャンヌの戸惑い
翌日になり、いよいよ今日はオルレアン攻略戦の日になった。
「おはよう二人共、朝食出来たけど……調子はどう?」
朝食の為にリアさんとジャンヌの二人を呼びに行くと、既に起きていたので声をかける。
「あ、ユウキ。調子は悪く無いわ、むしろ昨日は美味しい食事に広いお風呂と、十分休ませてもらったわ」
「それなら良かった、今日は頼んだよ」
「えぇ、任せて頂戴。それじゃあ私は先に朝食へ行くわね」
そう言ってするりと横を通っていく、通り際にあの子の事よろしくねと言われてしまった。
「えっと……ジャンヌちゃん、調子でも悪いの?」
カーテンの向こうに居るジャンヌちゃんへ声をかける、しばらくして出てきた彼女はどこか視線が定まってない様な感じがした。
「あ、ユウキさん……、おはようございます……」
「どうしたの? 体調でも悪い?」
「い、いえ……。体調は悪くないのですが、ジャンヌさんが……」
「ジャンヌが?」
「はい、昨日ユウキさんが敵に襲撃されたと伝えられてから、反応が無いのです」
狐の窓でも見た限りはジャンヌの魂に変化は無い、となると何かしら理由があって出てこないのだろう。
(うーん、出てこない理由が多分ジャンヌちゃんの感情を引っ張ってるような気がする……魂自体が混じり合ってるせいもあるんだろうけど、結菜たちの時よりも繋がりが強いみたいだし当然か)
「とりあえず、ジャンヌ。話を聞かせて欲しいな」
「そ、そうですよね……ジャンヌさん、どうしたんですか?」
ジャンヌちゃんの呼びかけに、ジャンヌが応える。
「あぁ、実は……昨晩ユウキが襲われた際、ジャンヌの……もう一人の私に引っ張られる感覚がしたんだ……」
「ん? ジャンヌともう一人のジャンヌは別なんでしょ?」
アマテラスさんの話しでもそうだったはず……。
「あぁ、そのはずだ……だけどあの時、私はユウキを……すべてを憎み殺そうとしたんだ……」
どうやらかなり気にしてる様だ。
「うーん、アマテラスさんに聞いてみるか……アマテラスさーん?」
空の上に声をかけると、ふゆふよと光の球が降りて来た。
「すみません優希さん、少し手が離せないので通信用の分体で失礼します!」
「そうなの? ゴメンね」
「いえいえ! 大丈夫です!! それで、どういたしましたか?」
ジャンヌの事を話す、話している内に原因が分かった様だ。
「それは恐らく。もう一人のジャンヌさん、それと今そこに居るジャンヌさんがこちらに来る際の力の発生源がダンジョンだからですね」
「「ダンジョン?」」
フランスって大きなダンジョンがあまり無いと聞いてたんだけど……。
「そうですね、本来は存在しないダンジョンなのですが……私のミスでダンジョンが生まれてしまいまして……」
「……つまり鬼一とか酒吞と同じ様な事が起きた訳か」
「はい、ダンジョンそのものは、むこうのジャンヌさんですが。元のジャンヌさんと共鳴する事はあると思います」
そう言って申し訳なさそうにするアマテラスさん、起きてしまった事は仕方ない。
「うん、起きた事は仕方ない。前向きに考えれば、お陰でジャンヌはこっち戻って来れてたし、こうしてジャンヌちゃんは大きな舞台で歌えてる訳だしね」
それにしても向こうのジャンヌが言葉も話せないのは違和感がある、鬼一や酒吞、それと茨木童子の時も相手は会話が通じていた。それが全くの翻訳魔法も意味の成さない言葉を話すというのはおかしい。
「うーん……ジャンヌって話せるのはフランス語だよね?」
「あぁ、私は生まれも育ちもフランスだ、別の国の言葉は聞いたことはあるがそれを喋れたりする訳ではない」
「じゃあ、あのジャンヌは何を喋っていたんだ?」
「どういうことですか優希さん?」
アマテラスさんの声色が不思議そうな感じになる。
「あぁ、昨晩戦ったジャンヌはフランス語を喋って無いんだ、喋っていたのは意味の分からない言語……というか呻き声?」
「そんなはずはないです、向こうの作った世界でも各国の言語は使えますので、それはありえないです!」
「となると、余計に訳わからなくなるな……」
というか、それは本当のジャンヌ・ダルクなのだろうか?
「なぁ、アマテラスさん、前に今ここに居るジャンヌ・ダルクともう一人のジャンヌ・ダルクは魂がほぼ似ているという話だったけど……もしかして向こうのジャンヌの魂がおかしいとか無いか?」
「それは……調べてみます!!」
もし、ジャンヌに似せているだけなら相手のジャンヌが足りない部分を引っ張ろうとする事もあるだろう……というか、漫画とかならお約束と言っても良い理論だ。
「出ました! これは……」
息を呑むアマテラスさん、何か重大な事がわかったみたいだ。
「よく聞いて下さい……確かに向こうのジャンヌさんは魂の複製ですが……。中身の半分以上は違います、一口で言うと邪神と同じ様なものです」
「邪神……」
ジャンヌの視線が揺れる、予想もしなかった答えに戸惑いが隠せていない。
「恐らくの推察ですが、ジャンヌさんの魂が同時に二つ存在してるのでジャンヌさん本来の善き魂の部分が相手の善性の部分を余計に引っ張っているのかと思います」
「つまり、昨日ジャンヌが引っ張られたというのは、向こうのジャンヌが失った部分を補完しようとして引っ張られたという事?」
「はい、ですのでこちらのジャンヌさんが、憎しみや殺意などの悪感情を流し込まれて、向こうのジャンヌさんから少しでも魂を奪おうとして働きかけたのかと思います……」
「つまり、昨日の事は相手の妨害って事か……」
「はい! だから今一番重要な事はジャンヌさん達二人が楽しい気持になる事です!」
そう言われたジャンヌは少し戸惑い気味だけど、目に活力が戻って来た。
「という訳で、優希さん後は任せました! そろそろ時間ですので……」
声が小さくなり光が霧散していく、あの分体は時間制限があるみたいだ。
「消えたみたいだな。とりあえず……ご飯食べようか?」
「はい、そうですね……ありがとうございます」
キチッときれいな角度でお辞儀をする、そうして上がった顔は少し晴れた様だった。




