第63話:作戦の中断と英気の養い方
「あーもう滅茶苦茶だよ……」
砲撃でズタボロになった周囲を見回して溜息をつく、服も跳ねた土や泥で汚れてしまった。
「泥汚れって落ちづらいんだよなぁ……メアリーに怒られないと良いけど。とりあえず敵は撤退したな、兵器だけ回収して行くか……」
先程まで砲撃をしていた位置を回り、携行できないサイズの迫撃砲を回収して行く。
「携行サイズは持ってかれちゃったけど、車輪付きは置いてかれてるな」
とは言っても泥を詰められたり壊されたりしてるので使えなくされている。
「まぁ……『修復』で直せちゃうんだけどね」
新品の様になった迫撃砲を空間収納へしまう。
そうして幾つかの地点を回り終えた後、撤退した味方の前線基地へ飛んでいく。
「あっ、帰って来たぞ!」
「ホントだ! 生きてる!?」
「良かった! 良かった!!」
喜び合う兵士達、全員無事の様だ。
「皆さん、逃げ切れたみたいで良かったです」
「あぁ、助かった。それはそうと足は付いてるな?」
足元を確認してくる、兵士に部隊長が頭をひっぱだく。
「こら! 命の恩人に失礼だぞ!!」
「いやだって、空飛んでたし……」
確かに……幽霊は空飛ぶもんな。
「あはは、無事生きてますよ。これでも頑丈ですので」
「いや、頑丈では片付かないだろ……」
「あれだけ砲撃に晒されてるのに、怪我一つ無いなんて……」
「ホントに幽霊じゃないよな?」
「大丈夫ですよ、こうして触れますし」
握手をしながら確かめさせる、それはそうと迫撃砲を返却しないとな。
「これなんですが、砲弾は持ち帰られてたんですが砲はそのままだったので回収してきました」
空間収納から迫撃砲を出して並べる。皆、目を見開いてたんだが気にせず並べていく。
「とりあえず回収した分です。どうぞ使って下さい」
「あ、ありがとう……」
「それで、今日はどうします?」
「今日は止めておきましょう、とは言っても明日必要になるかわかりませんがね。作業できなかった部分は兵の配置を多くして防衛ラインにしますよ」
「そうですか、すみませんこんな事になってしまって」
俺狙いみたいだったし、作業も途中になっちゃったからなぁ……。
「いえいえ、謝らないで下さいよ。カミナギさんのお陰で皆無事に帰還する事が出来ましたから」
「それなら、良かったです」
あたく握手を交わす、それから早いけど転移で皆の元に戻るのだった。
◇◆◇◆
「ただいまーってどうしたの?」
家に戻ると、玄関で耀が座って待っていた。
「おかえり。優希、ジョルジュさんから話を聞いたんだけどさ敵に襲撃されたんだって?」
目を細めてこちらを見る耀。
あ、これ怒ってるわ……。
「えっと……連絡遅れてすみません」
思い当たることはこれしか無いので、とにかく頭を下げる。
「はぁ……次からはしっかりと連絡してね。皆、心配してたんだがら……」
「はい……すみませんでした……」
「とにかく、お風呂入って来たら? 服も泥だらけだし」
泥だらけの服を指差す、光に当たると凄い汚いな……。
「そうだね、とりあえず服はここで脱いでも大丈夫かな?」
「良いわよ、簡単に私が外で洗って来るし」
服を脱いで耀に手渡す、そのまま耀は外に出て行く。俺は風呂場に向かい魔法でお湯を張る。
「少し熱いけど……まぁいいよね」
身体を洗い泥は固めて乾燥させる、後で外に捨てるので空間収納へ入れておく。
「ふぅ~きもちいぃ~」
湯船で足を伸ばす、特注サイズのお風呂なので広々と使える。
――ガラガラ。
「はぁー疲れたぁ……」
バスタオルを巻いた耀が入って来る、渡した服は洗い終えた様だ。
「耀!? どうして!?」
「いや、私も少し汚れちゃったからね。それにお風呂入ってなかったし、後でユフィも来るわよ」
「へ?」
「という訳で、優希お湯ちょうだい」
「あぁ……わかった」
魔法でお湯の球体を作る、そこからお湯を流す。
「流石、器用ねぇ……」
身体を洗い、髪を洗う。その姿をじーっと見てると耀が振り向く。
「見てて楽しいの?」
「うん、耀の身体って綺麗だし……わぁ!?」
水球を飛ばされた……湯気で見づらいけど顔が真っ赤だ。
「まったく……。スケベなんだから……」
「ん、違う。優希はスケベじゃない、ドスケベ」
そう言って一糸纏わぬユフィが入って来る。
「確かにそうね……、かなりのドスケベよね」
二人して頷き合う、というか皆からの俺の評価ってそうなの?
「優希、私もお湯欲しい……」
「あ、ごめんごめん」
耀に向けていたお湯を、ユフィの方にも向ける。
洗い終えた耀が先に湯船へ入って来る。
「あぁ~極楽極楽」
「お湯、熱くない?」
「だいじょーぶ~ちょうどいい~」
「そっか、ユフィは?」
「ん、大丈夫。それと優希……」
ユフィがこちらを向く、くりくりとした瞳が俺をしっかりと捉える。
「髪、洗って」
「あぁ、わかった」
立ち上がりユフィの髪をお湯に取り込む、水の中にシャンプーを入れて揉みこみ洗う。
「優希、気持ちいい」
目を閉じて気持ち良さそうにするユフィ。
「そっか、なら良かった」
「優希、後で私も洗ってね~」
湯船から耀の声が来る。
「耀はさっき洗ったでしょ?」
「トリートメント流すから~手伝って欲しいの~」
「そういう事ね、了解」
それからしばらく三人で他愛ない話をしながらいつもより近い距離で、お風呂を満喫するのだった。




