第60話:虚と実
「成程、そう言う事だったんですね……」
一通りジャンヌともう一人のジャンヌについての説明を終える、用意してもらったコーヒーはすっかり冷めてしまった。
「はい、無用な混乱を避ける為にも言わなかった事は謝ります。ですがジャンヌ自身が皆の為に頑張っている事は間違いないです……ありがとうございます」
新しく淹れ直してくれたコーヒーを受け取る。
「そうみたいですね、聞いてる限り問題も無さそうですし、ここは上手く皆に伝えましょうか……」
「上手くって……大丈夫ですかそれ?」
「まぁ、やってみないとわかりませんが。少なくとも私達についているのは救国の聖女様ですから」
それからいくつか話し合ってジャンヌちゃんの設定を作り込んでいく。
・相対するジャンヌダルクはその名を騙る偽物で、ナポレオンがプロパガンダとして使った。
・一方こちらのジャンヌは神によってフランスを救うの為に、清き心を持った少女の元に遣わされたもの。
・神に選ばれたのはこちらであるから、こちらの方が正しく彼女を守り支える事こそ我々の使命でもある。
なんともまぁ強引な感じだけど、宗教……神の教えを守る教徒がしてはそちらの方が気合が入るとの事だ。
「日本人は宗教に熱心な人は少ないですからね、わかり辛いと思いますが……」
「あー、確かにそうですね……特定の宗教に対して熱心な人は少ないですね、行事も色々とごちゃまぜですし」
「いいと思いますよ自由で、だからこそ異世界でも活躍できるのでしょうし、敬虔な私達ですと難しいでしょうから」
「確かに……偶然向こうの国は国教とか無かったですけど、信じる神様が違うと受け入れられない事はありそうですものね……」
「えぇ、ですのでたまに日本の方を羨ましく思いますよ……」
◇◆◇◆
ジョルジュさんとの話し合いを終えて、報告の為に皆の元へ。
「おっ、良い匂いがするな……」
家に近づくと夕食の香りが漂って来る。
「あっ優希、やっと帰って来た」
耀が玄関横で何かやっている。
「何やってるの?」
「んーっと実験?」
黒い板に棒を差し込むと別地点の黒い板から棒が出てくる、なんか凄い事やってるな。
「空間魔法? なんでまた?」
「うーんと、この間ランスの街の防衛で空間魔法を使ったんだけど。そういえば空間を繋げるってどういうやり方がやりやすいのかな~って疑問に思ってね」
今度は板の反対から差し込むと普通に貫通する。
「今までは座標と言うか、なんとなくこの位置に設置して、って感じだったんだけどね。理解を深めるともう少し展開や効率が良くなるかな~って思ってさ」
「へぇ……そういえば、俺も多分出来るんだよな、やり方わかんないけど……」
「そうなの?」
「あぁ、転移とか空間収納は空間魔法の応用だって聞いたしきっとできるんだよなぁ……」
空間に穴を作るように考えながら、空間魔法を使う。
「あぁ、駄目だな……転送出来ない」
穴を素通りするだけで特に変化はない。
「優希優希、コツはドラ〇もんのあの道具よ」
「あの道具?」
「どこ〇もドアよ、どこで〇ドア」
「どこでも〇アかぁ……」
あれってどういう原理だっけ?
「うーん、原理がわからないんだけど……耀はわかるの?」
「いや、わかんないわよ? でもあれはこことそこを繋ぐようにドアを作るじゃない、それを再現するのよ」
しれっと言う耀、でも耀の説明だと座標とかじゃないんじゃ?
「硬く考え過ぎよ、〝大体この辺に作る″くらいの感じでも出来るんだから」
そういえば耀って、魔法のセンスが凄いんだった……。
「うん、とりあえず練習しておけば、その内出来るようになるか……」
「頑張って、応援してるわよ」
そう言って立ち上がろうとしたタイミングで声が掛けれらた。
「旦那様、耀さん。リア様とジャンヌ様をお連れしましタ」
メアリーが丁寧にお辞儀をしている。
「メアリーありがとう。それと、二人共いらっしゃい、私は一足先に戻って春華ちゃんのお手伝いをして来るわ。優希はゲストの案内を頼むわ」
「耀さン、私もご一緒しまス」
にっこりと笑った耀とスッと俺達の後に移動しているメアリー、二人共家の中に吸い込まれていく。
「いや、家の中って言ってもそんな広い訳じゃ無いんだけどな。とりあえず……二人共入る?」
「そうね、ニッポンの家。気になるわ」
「こ、これがお家なんですか……」
見上げるジャンヌ、確かにフランスの住居とは違うもんな。
「そうだね、これは日本では平屋と言われる家なんだけど、まぁウチは人数多いからもう一つ家をくっつける増築工事はしたけどね」
新居を建てるので土地ごと家を買ったのだが壊すのも費用がかかるので家を丸々復元魔法で修理して、そこに別の家をくっつけて増築したのである。
「私の家、何個入るんだろう……」
「ユウキ、この狭いベランダは?」
「あーうん、順々に案内してくから……」
呆けているジャンヌと縁側に興味津々なリアさん、その二人を連れて家の中を案内するのだった。




