第51話:ジャンヌとジャンヌ
それから2時間程して、ジャンヌと魔力操作の訓練をしていると。採寸を終えたリアさんが戻って来た。
「あれ? 遅かったですね……」
リアさん達に声をかけるが呆けている様だ。
「ユウキ、異世界って凄いのね……」
「どうしたんですいきなり……」
「来る途中でティアニールさんという龍と会いまして、最初は信じられなかったのですが、目の前で変身する姿を見せて貰ったんです」
「それで乗せてもらったの! 凄かったわぁ~」
「あぁ、そう言う事ね……」
ティアさんの魔力がしたのは訓練してたからじゃないのか……。
――コンコン。
「あ、どうぞー」
噂をすると何とやら、、ティアさんが扉を開いて入って来た。
「じゃまするぞー、皆揃ってるな」
入って来ておもむろにジャンヌの隣に座る、そして身体をまさぐり始めた。
「ひゃう!? くすぐったいです!」
「あっこら、暴れるではない! 今お主の魔力の流れを見ているのだ、少し我慢せい!」
「へっ? そ、そうなんですか!?」
俺を縋るような目で見て来るジャンヌ、うーん……俺そんなの知らないなぁ……。
「良くわからないけど、当人が言うならそうなんじゃない?」
「そんな、ひゃはは!?」
胸まで来そうだし、目に毒だから止めて欲しい。
「ティアさん、それって必要なんでですか?」
とりあえず顔を背けながら聞くと、少し困惑した声が帰って来る。
「そうなんじゃよ、そこのリアという娘は背に乗せた際に魔力を通して調べたのだが。だが、ジャンヌというこの娘はイマイチわからないんじゃよ……まるで二つの魔力が完全に混じり合ってない。それに、片方は特異な魔力でなじゃからこうして人の身で調べてるのじゃよ」
恐らく、双方の自我が残っているせいで進まないのだろう、だからといって分離はジャンヌ・ダルク自身に合う身体がないから出来ないし……。
「あー、そう言う事か……」
「なんじゃユウキ、原因はわかるのか?」
「はい、ジャンヌの体には魂が二つ、混じり合ってるからですね、そのせいで魔力が読み取れないのかと……」
「あいわかった、そこな小童の中身よ1時間をやるから少し話し合うのだな。ユウキ、リア訓練に向かうぞ」
ティアさんが立ち上がり扉へ向かう、俺達も立ち上がり後を追うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇ジャンヌside◇
話し合うと言われたけど、私は一体何を話せばいいのだろう……。
『えっと……ジャンヌちゃん、私が説明するね?』
「あ、はい……お願いします」
『まず、ごめんなさい。こんな事にあなたを巻き込んだのを謝るわ……』
「でも、それは私も望んだ事で……」
『違うのよ、それは私が意識を誘導したから……この国を救う事しか頭になかった私が偶然、何かしたいと思っていた貴方という存在を見つけたの』
「えっ……」
ジャンヌさんの言葉に狼狽える、だって私は皆を守りたくて……リアさんやユウキさん、新しく出来たお友達、それにおばあちゃんも街も、皆も、国も……。
関係無い人たちや見た事無いフランスの情景が頭に流れ始める……。
「あれ? どうして私……身近な人を守るだけで良いと思ったのに……」
『ごめんなさい。私と混じったから、私の想いに引っ張られているの……』
「そう……なんですね……」
なんとなくわかっていた、私のちっぽけな体と心じゃ国を救った英雄には勝てないと。
ジャンヌさんを受け入れた時から薄々感じていた事だ。
「完全に混じっちゃったら私どうなっちゃうんでしょうね……」
ジャンヌさんのような、死んでからも祖国を守りたいと思う程の魂の大きな人だしきっと想像していることが合っているはずだ。
私の考えがわかってしまったのか……二人して言葉が無くなる。
『ジャンヌは……将来、何がしたい?』
話しの舵を唐突に切るジャンヌさん、どうしたんだろう。
『ほらほら、答えてよ。私、そう言えばジャンヌの事知らないし』
「私は……歌を歌いたい……もっと大きな場所で、もっとたくさんの人に聞いてもらいたいな」
立ったのは小さな劇場だったけど、リアさん達を見ていると私もいつか外の世界で歌いたいと思ってしまった。
『そっか、ちゃんと大きな思いはあるじゃない。私も協力するわよ!』
励ましの言葉が私の中にスッと入って来る。
『私は神の言葉に従って国の為に戦った、戦って戦って最後は死んじゃった……』
それは私でも知っているジャンヌさんの最期。
『でも私は、きっとこの国が勝てば、普通の女の子に戻れると思ってた……普通の子の様に生活して、歌って、遊んで、恋をして、最後は幸せに死ぬもんだと思った……』
その声には涙が混じっている。
「ジャンヌさん……」
『でも私は後悔しなかった、敵を倒して国を救いこの国を未来に繋いだ。ただの村娘には上出来だったわ。だからね、ジャンヌちゃんには好きな事をして好きな様に生きてもらいたいの』
明るく言う、ジャンヌさん。
そして残した未練も伝わって来る。
「でも……私じゃ……」
『大丈夫、だってジャンヌちゃんには本当の神様がついてるからね』
明るく言うジャンヌさん、に私は困惑するのだった。




