第42話:ランス防衛線Ⅳ
「大丈夫ですか?」
こちらを見ているご老人と子供へ声をかける、唖然としているがぱっと見怪我は無さそうだ。
「き、君は?」
「有志で戦ってる者です、敵も居なくなったので無事な人が居ないか確認してました」
「そうか……すまないが手を貸してもらえないか? 妻が逃げる際に腰をやってしまってね」
お爺さんが立ち上がりながら言う、地下室へつながる階段を降りながら魔法で灯りを出す
「えっと、失礼しますね……」
鑑定で状態を見る、どうやら逃げる際に打ち付けたのか大腿骨の骨が折れている。
「少し押さえますね、痛いのは一瞬ですから」
少し押さえて回復魔法をかける、他の子達も怪我してるかもしれないので『範囲快復』で済ませる。
「ありがとう、痛みは無くなったわ。今なら走り回れそう」
「いえいえ、痛みが引いたなら幸いです」
それから地下室の人達と共に外へ出る、だが凄惨な街の姿に言葉が無くなる。
「皆さん、案内しますのでこちらに。どこに敵が居るかわからないので素早く動きますよ」
「あ、あぁ……」
『皆、子供を合わせた10人くらいの避難民を見つけたから連れて行くね』
『分かったわ、手伝いはいる?』
素早く耀が返してくる。
『いいや大丈夫、式神達を出していくよ』
『わかったわ、こちらは任せて』
『それだったら、私が優希の位置を交代するわ』
アミリアが返してくる、位置的には少し遠いけど大丈夫か。
『わかった、頼むよ』
『むぅ……ずるいですわ……』
通信器越しに頬を膨らませているリリアーナが割り込んでくる。
『リリアーナも、殲滅任せたよ。ユフィも耀も頑張って』
『張り切りますわ!』
『ん、任せて』
『優希も気をつけて』
『そうだアミリア、もしヤバい状態の人が居たらすぐに連絡してね』
『わかったわ』
通信を終えて向き直る、さて与一たちを召喚び出そう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇里菜side◇
「やっぱりおかしい」
道中接敵しつつ蹴散らしながら進む、そして家を捜索する事数十戸を回ったあたりで確信に変わる。
「や――けて!!」
「今の!」
「えぇ、急ぎましょう!」
「こっちです!!」
微かに悲鳴が聞こえたので、セレーネさんの案内でそちらの方へ走る。
「里菜さん、あそこ!!」
バルコニーにいる女性と赤ちゃんの元へ亡者が群がっている、このままじゃいずれ餌食となってしまうだろう。
「ここは私は切り開きます!『宝石よ私の願いに応え、炎を司る獅子の咆哮として応えよ——炎獅子の双牙!』」
「グガァァァァァ!」
炎の獅子がブレスを吐く、そして収束して熱線へ変化し亡者を薙ぎ払う。
「里菜さん!」
「ありがとう!」
踏切板の様に春華ちゃんが私を打ち上げる、お陰で屋根よりも高く跳ぶことが出来た。
「はぁぁぁぁ!!」
女性に手を伸ばした亡者を両断する、そして再度構えると室内ではおぞましい光景が広がっていた。
「やめっ……ギャアァァァァ!?」
「ふむ、やはり上手くはできんな……んっ?」
旦那さんだろうか、黒い炎に包まれる男性と不満気な顔をした軍服の男が居た。
「ほう、私の親衛隊を倒すか! これはこれは素晴らしいレディーだ。ここいらの無能よりは役に立ちそうだ」
燃えている亡骸を投げ捨てる。炎に包まれた後、そこには先程から倒してきた亡者の姿があった。
「このぉ!!」
一気に近づき身体を斬る、はずだった。
「ググッ……ガギャア……」
先程の亡者に変わった男性が間に入りその身で剣を止めていた。
「んなっ!?」
「上等、さて。その体と力、我が皇帝の為に役立ててもらいましょうか!」
腰の剣を抜いた男が振りかぶる、黒い炎を纏い振り下ろされる。
「くっ……抜けない!」
もがくが剣が抜けない、仕方ない……。
「ごめん優希さん!」
剣を捨て蹴り飛ばす、その瞬間炎を纏った剣が右手を掠める。
「フフフ、さぁ! 冥界の炎に焼かれるがいい!!」
瞬間、黒い炎が身体を駆け抜け、視界が明滅する。
(ごめんなさい優希さん)
その言葉が出る前に私の視界は闇に落ちた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇???side◇
「んなぁ!?」
誰かも知り得ない声にて、私の意識が突如浮上した。
「——全く、人が心地よく眠りについているというのに……」
仕方ない、この身体や魂に異常があった時は、出るようにしていた訳だからな。
「貴様! 私が浄化の炎を受けて立っているだと?」
「浄化? あの様な、人の魂を汚す炎の事か? 貴様、巫山戯ているのか?」
沸々と怒りが湧く、人の尊厳を汚す力に反吐が出る。
「まぁ良い、その様な術を使う亡者には今生は過ぎた物だ」
身体から湧き出る炎を剣と模る。
「天十握剣」
「ナ、ナンダソノチカラハ!!」
「答える必要は無かろう、これで終るのだから」
剣を振るう、白い炎が黒い炎を飲み込み消し去る。
「ヤメロヤメロヤメロヤメロォォォォォ!!」
「黙れ、黄泉へと落ちろ」
「ギャアアアアアアアア!?」
目の前の不快な存在を焼き消し去る。
「ふぅ……そろそろ限界か……、まぁ仲間も来るだろう……ふぁぁぁ~」
大きな欠伸が出てくる、さて一眠りをするか……。




