第8話:優希の学びと結界
◇滝夜叉姫side◇
「むっ……お父様の気配が消えましたね……」
お腹を満たした私は陰魔羅鬼の上に乗り下界を眺める。
「いいでしょう、この周囲に居るのは間違いありません。しばらく探して居ないのであれば戻りましょう」
「——ゲエー」
陰魔羅鬼と共に一際高い建物に降りる。
「ほう……ここは学び舎か……子供は役立たずだからな、兵にもならないし」
「——ゲエー」
それから待てど、お父様は現れなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇優希side◇
それから2時間後こちらの世界に戻って来ると、日の入り間際になっていた。
「それじゃあ皆、今日はお疲れ様でした。お家が遠い人や一人で帰る人が居たら着替えた後に先生の所に集まって下さい」
「「「「「はーい」」」」」
そう言って各自ばらけていく、そのまま帰宅する子も居れば着替えに行く子も居る。だが皆一様に目が輝いてるのが今回のダンジョン見学をして良かったと思える。
そんな中、優羽と澪ちゃんの元に行く。
「二人共、大丈夫だった?」
「はい、わたしはだいじょうぶです!」
元気いっぱいな澪ちゃん、それとは対照的に暗い雰囲気の優羽。
「優羽、大丈夫かい。気分が悪いとか?」
「いいえ、身体には問題はありません。ですが、お父さん達がああいった場所で戦っていると思うと、とても感謝しかないと思ったんです。それに……」
私が色んな人から期待されてる事も……と小さく呟いた優羽。
そんな優羽の頭の上に手を置く。
「あー、優羽はまだ適性検査もしてないし。それに探索者は自由に選択できる職業だ、俺達だって生涯探索者業で生活していくつもりはないからね。だから優羽は好きな事をやれば良いんだ」
「でも、世間じゃ私はお父さんの子で……」
「うーん、そこまで気にしなくても良いよ。いつか分からないけど、優羽の弟か妹だって探査者になりたくないだろうし。その時優羽が探索者じゃなかったら、新しい道を選びやすいだろ?」
俺が思った事を言うと、優羽が考え始める。
「そう……ですね、ありがとうお父さん」
「あぁ、何かあったら俺やお母さん達を頼ってくれ。皆優羽の頼みなら聞いてくれるからさ」
――――くぅ~。
優羽の頭を撫でていると、可愛らしい音がした。音の方を見ると澪ちゃんが恥ずかしそうにしている。
「そうだな、俺も腹減って来たし、急いで帰ろうか」
「「はい!」」
二人と共に足早に帰るのだった。
◇◆◇◆
それから数日、特に何も無く過ごしていたが、金曜日の夜に清明さんから呼び出された。
「優希殿、ここ最近なのだが、澪の周囲で妖怪の気配が強まっている」
「妖怪の気配?」
「あぁ、優希殿は霊感が無い故わかり辛いだろうが、妖気というものは霊感と似ている故、人によって感じ取り方が違うのだ」
「へぇ~というか清明さんはわかるんですね」
「それはそうだろう、腐っても幽霊みたいなものだからな」
「……そう言われればそうですね」
「恐らく、娘が動き出したみたいじゃな……」
いつの間にか、将門さんがやって来ていた。
「娘って……滝夜叉姫?」
「それ以外におらんわ、そしてもう一つ。どうやら澪ちゃんが狙われておるな」
ぬいぐるみだがら顔はわからないけど、深刻そうな声で言う将門さん。
「それって……どういう事?」
「あの子は器には丁度いいからな。今は幼くて降霊術がやっとだが、成長すれば妖術も扱えるようになる」
「そうなんだ、天然の才能って凄いな……」
「「お主が何を言うか……」」
感心したように言うと、二人の顔(見えないけど)が呆れ顔になった。
「まぁ良い、それでお主にはある事を習得してもらいたい」
「ある事?」
「えぇ、簡単に言うと結界ですね」
「結界……それって以前酒吞がやってた【鬼國鏡界伏魔宮】みたいな?」
「そうだな、基本的には自身の有利な状況を作り出し、外の世界と隔絶する。そこで己が敵を仕留める為にやるんだ」
「わかりました、因みに清明さんの結界は?」
参考に出来るのであればしてみたい。
「そうだな、私は基本的に蛟や大百足を使役する為に龍脈から力を借りると共にその二体の元となる……言わば形を成す物を呼び出し、形作り憑依させる。そんな感じだな、あまり参考にはならないがな……」
「そうか、相手の弱体をさせる以外にも式神なんかを召喚の為に使っても良いのか」
「そうだな、まぁ酒呑童子の方が詳しいだろう、私も結界術のコツは酒吞童子から習ったしな」
「わかった。明日休みだし酒吞と練習してみるよ」
「あぁ、さて儂は大人しくしておこう。澪ちゃんの近くで感じ取られたら厄介事になりかねん」
「私は明日になったら澪ちゃんに入って結界を張るよ」
「わかりました、ありがとうございます」
その日はそこで終えて、翌日酒吞を交えて結界の練習を始めるのだった。
◇◆◇◆
「そうだねぇ……優希の力そのままでやると戦闘に支障が出るだろうから、結界の展開と維持は結菜に任せるのが一番だと思うよ」
「そうなの?」
「うん、結菜も少しは結界が扱えるし。発動に使いやすい魔導砲台で結界が張れるからね」
「マジか……式神っぽい感じに調整したらそこまでできるようになったのか……」
「ねー、私もびっくりだよ。昔は九字を刻んだ石でならやった事あるけどね」
「非常に面倒でしたよ、妖力の強い時の貴女はわざわざ四天王と分けて、頼光と戦ったんですから」
「まぁ、あの時はゆっくりあの子と話をしたかったからね……」
そこで寂しそうにする酒吞、そして若干気まずそうにする清明さん。
「っとすまない、湿っぽくなっちゃったね。一応結菜に結界を任せるにしても、優希が知ってて損は無いからね。練習しようか」
「そうだな酒吞、頼んだよ」
「あぁ、任せてくれ。ほら、そこの木偶の坊も手伝え、陰陽術を交えた方が優希への説明や様々な習得が出来て良いだろう?」
「あぁ、わかった。それじゃあまずは鬼道と陰陽術の結界の違いから話していくか」
それから二人に結界を含めた様々な鬼道から、陰陽術を教え込まれるのだった。




