第4話:察しの良い二人と、遠くに見えた学生の本分
「全く……久々に呼び出されたと思えばどうしたというのだ?」
「実はここに居る人を見てもらえれば良いんですが……」
「ふむ……、ほぅ……お主面白い人を連れておるな」
『ひさしぶりよのぉ、晴明殿』
「久しいな将門殿、幼少期以来ですな」
『そうだな、まぁお主ならこの事態を解決できそうだな』
「また何か起こしたんですか?」
『いや、起こしたのは娘でな……』
「五月姫が?」
『あぁ、今は滝夜叉姫と名乗っておるよ』
「そういう事か、それで事態の収拾を私と優希殿に持って来たのか」
「もしも~し、私も居るんだけど~」
今まで蚊帳の外だった酒吞が入って来る。
『すまないな鬼神殿』
「それで、優希は晴明を戻して何を聞こうと?」
ナチュラルに腕を組んで来る酒吞。
「うーんとね、特には考えて無かったんだけど、陰陽術の天才が居た方が俺達の知らない事柄が出た時に対処しやすいかなぁってね、それは酒吞に対してもだけどね」
俺がそう言うと、酒吞も満足したように頷く
「それじゃあ、一旦東京に戻ろうか。それで酒吞、荷物は?」
「用意し終わってるよ、学校の方にも一時的な転学の申請も終えて来た」
「結菜の方は?」
今回酒吞だけがこっちに来るという話だったんだけど、結菜の機嫌が悪くなってないか心配だ。
「大丈夫だよ、それよりも結菜の学力の方で問題が出てきてな……」
「学力で問題?」
高校生としては平均的な学力だし、そこまで問題になるような程だとは思って無かったんだけど……。
「あぁそれがな……結菜は今よりも一つ上の学校に行きたいらしくてな。とはいっても今は3年生。希望校の模試をやってみたのだが、C判定らしくてな……」
「あー……この時期からだと学校の勉強と、一つ上の学校への受験対策だとかなり忙しいのか……」
里菜はそんな素振り見せなかったけど、俺達と出会うまでは勉強をほったらかしにしてたので、受験直前はかなり頑張って勉強していた。そのかいあってかでいつの間にか俺と同じ志望校に受かっていたくらいだ。
「というか、俺も今年受験なんだよな……」
元々学力は低くはないのでどうにかなると思うけど……。
「後で俺も模試受けとくか……」
「そうした方が良いわね、結菜も結構焦ってたし」
「それで、東京に戻るのではないのか?」
清明さんが少し呆れながら聞いてきた、そうだった。
「とりあえず、将門さんは何かに一度入ってもらえば良いか……」
「とはいっても澪には、もう入れないですよ?」
そうだよな、澪ちゃんに詰め込むのも悪いよな。
「零亜さん、零亜さんは物に入った魂も出す事出来ますか?」
「はい、あまり試した事は無いですが……」
「それじゃあ将門さん、一旦これに入ってて下さい」
小さなぬいぐるみを取りだして聞く、サイズダウンしているけど入る事は出来るだろう。
『わかった……むむむっ、中々に窮屈じゃのう……』
無理矢理に入っていく、すっぽりと収まった後、酒吞が鬼道を解く。
「清明さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、問題無い」
頷く清明さん。
「それじゃあ、東京に向かいますか」
再度、転移で東京へ戻るのだった。
◇◆◇◆
「という事で、少しの間優羽と一緒に学校に通ってもらうから。優羽よろしくね」
「わかりましたお父さん、澪ちゃんよろしくね」
「はい、お願いします!」
「すみません、優希さんお手数をおかけします」
零亜さんが頭を下げる、東京に戻って来た後はこの件に時間がかかるとわかったので、俺達の家へ来てもらったのだ。
「ただ、客間が一つ下の階ですので、移動はエレベーターでお願いします。朝食などはこちらで一緒に食べましょう」
「で、ですがそれだと負担に……」
「大丈夫ですよ、我が家の人達は忙しいので人数が減ったり増えたりですので」
「それニ、一緒の方が何かと楽ですのデ」
メアリーも賛同してくれる、我が家の家事の殆どを任せてる彼女も了承してくれたし問題は無いと思う。
「ですが……費用は?」
「あぁ、それはダンジョン庁が負担してたホテル代をこちらに回してくれるみたいで、綴さんも経費が安くなると喜んでました」
「そうなんですね、お昼に続きお任せしてしまうのは心苦しかったので……」
「ははは、心配しないで下さい。こう見えて日給数百万のバイトがありますので!」
まぁダンジョン潜って帰って来るだけなんだけどね。
「優希さん、お待たせしました。澪ちゃんのランドセルと教科書持ってきました」
教科書とランドセルを持って来た巴ちゃんが入って来る。
「わぁっ!」
それを見た澪ちゃんが顔を喜ばせるのだった。
「それじゃあ、優羽。もし何かあったら遠慮なく使ってくれよ」
あれから少し変わった、防犯ブザー型の魔道具を渡す。
「はい、使い方は防犯ブザーと一緒で大丈夫ですか?」
「あぁ、こっちのボタンは普通の防犯ブザーでこれを引くと魔力での防犯ブザーになるから」
「わかりました、ありがとうお父さん」
受け取った優羽の頭を撫でるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇???side◇
「やっぱり、父様の身体だけじゃ強い妖にはならいないか……」
私は呼び出した妖を消して溜息をつく。
「しかし、蘇ったときは驚いたけど、身体も慣れて来たわね」
刀を振るい妖術を使う、だいぶ力も身体に馴染んで来ていた。
「これなら憎き朝廷を今度こそ倒せるわね」
ただ、昔と違い現代は〝銃〟が存在する、あれは不味い音と威力で妖が慄いてしまう。
「そして圧倒的に兵が足りないな……」
――ぐぅ……。
「しかし、良く腹が空くな。現代の食は腹持ちが悪くて困る」
山のように積んである袋を開け中を食べる、ポテトチップスだったか?非常に美味しいのだが如何せん腹持ちが悪い。
「何かしら、稼ぐ必要があるわね……」
煮炊きが得意でない私は買ってくる方が早い、だがそうなるとお金は必要だ。
「とりあえず、山を降りましょうか……おいお前達、この女を埋めておけ、頃合いになったら私の兵として使う」
「「「ギャアギャア」」」
餓鬼や骸が穴を掘り始める、これ以上だと腹の消費が大きくなるから仕方がない。
私を襲ってきた所を返り討ちにした女の服に着替え、山を降りてどこへ行こうか考えるのだった。




