第69話:結菜の両親
西園寺さんの電話から30分ちょっと、京都大学へ到着した。
「本当に30分で……」
門前に立っている女性が驚いている彼女が姫崎さんだろう。
「急を要するので挨拶は失礼します、結菜のご両親は?」
「こちらです」
姫崎さんが衛兵の方に声をかけると中に通してくれる。
「情報が欲しいのですが大丈夫ですか?」
「はい、私のわかる範囲であれば」
「まず、結菜のご両親が見つかったのはいつ頃ですか?」
「時間にしてお昼過ぎです、本日はご夫妻の仕事も休みでした、結菜様と遊ぶ約束をしていた心愛お嬢様が土御門家へ向かった所異変に気付いたそうです」
「そうだったんですね、それで結菜の家は荒らされてたんですか?」
「はい、ですが強盗とは違う壊れ方をしていたそうです。大型のモンスターにやられたかもしれないとの事でした」
嫌な予感がする、大型のモンスターという話、アマテラスさんが伝えていた大江山や伊吹山の鬼伝説……。
「ともかく、情報が欲しいので後で結菜の家に行かせてください」
「かしこまりました。恐らく警察の方々がいらっしゃると思いますので、私もご一緒します」
「へ? どういうことですか?」
「私、西園寺家にスカウトされる前は京都府警に勤めてまして、知り合いが数名居るのです」
エア眼鏡をくいっとする動作を行う姫崎さんだった。
◇◆◇◆
「お待たせしましたこちらです」
姫崎さんが手招きをする、地下へと下る階段を降りて霊安室の前に到着するそこに一人の男性警察官が居た。
「姫崎元警部お久しぶりです」
「お久しぶり、金原君」
「それで、そちらの男性が土御門ご夫妻の遺体を見たいという、好き者ですか?」
厭らしい視線を向けて来る金原さん。
「えぇ、それで通してもらえるかしら?」
「流石に部外者ですからねぇ……」
「姫崎さん、目と耳を塞いで寝転んで下さい」
「え?」
「早く!」
「は、はい!」
耳を押さえて寝転がる、その瞬間身体強化して大きく息を吸う。
「GYAAAAAAAAA!!」
竜の様に吠え衝撃波をぶつける、一応指向性は持たせてるので大きく被害は無いと思うけど建物に亀裂が入り目の前の警察官が鼻血を出して気絶する。
「『——回復』それと『——復元』」
姫崎さんと警察官を回復する、それと建物を復元して終了だ。
「か、上凪しゃん……ひ、いまのは?」
呂律が回らない姫崎さん、今の技の影響だろう。
「えっと……対人制圧用の技ですね、大声を出して衝撃波を作り鼓膜を破ったり脳震盪を引き起こす技ですね。問答が面倒でしたので眠ってもらいましたが……」
気絶させた金原君を指差す姫崎さん。
「金原君は大丈夫なの?」
「はい、回復魔法もかけましたので。それと壊れた建物とかも修理しちゃいました」
「修理って……本当ですね……向こう側が綺麗になり過ぎてます……」
振り返ると、綺麗なのだがやはり老朽化している部分と、修復で直した前方部分が新品同様になっていたりする。
「あー見なかったことに……それよりも結菜のご両親を」
霊安室に入ると小奇麗な木棺の中に顔の拉げたご両親の姿があった。
「よし、それじゃあ回収しちゃいましょう」
「えっ?ちょっとどういう!? って無い!?」
「まぁ、遺体が無いと肝心な事が出来ないので……さぁ行きましょう」
空間収納にさっさと仕舞い外へ出る、金原さんには首が痛くならない様にU字の枕を置いておく。
姫崎さんが言うには「悪い子じゃ無いし、仕事もきっちりやるんだけどねぇ……愛想が悪いのよ」と仕方なさそうに肩を竦めていた。
「それじゃあ、結菜の家の場所を教えてください」
「わかったわ……場所は――」
スマホで場所を調べる、場所は宇治の方でここから車で30分程の場所らしい。
「それじゃあ急ぎなんで失礼しますね」
「ひゃあぁ!? ちょっと、上凪さん!?」
「落ちるといけないので暴れないで下さいねっ!」
「へっ、落ち……ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
お姫様抱っこで抱え上げて飛び上がる、速度を上げるためにガッチリとホールドする。
「ゆっくり目に飛ぶんで、口は閉じてて下さい!」
「(こくこく)」
そのまま夜の京都を飛行していくのだった。
◇◆◇◆
「ぜーはぁ……ぜーはぁ……」
「大丈夫でした?」
「は、はいぃ……大丈夫です。まさか空を飛ぶなんて思いませんでした……」
「あはは……緊急事態でしたから……」
到着したのは田んぼの真ん中にある大きな家、そこが結菜の家らしい。
「ここは裏手なので表に回りましょう」
「そうなんですね……そういえば門が少し小さめですね」
純和風のお屋敷の門と言うより少し豪勢な一般住宅の門構えだ。
「こっちです、着いて来て下さい」
姫崎さんの案内で表に回る、表の門は豪勢な純和風の門構えでデカかった……。
「ご苦労様です、姫崎ですが滝原副署長は?」
「中でお待ちです、こちらへ」
二つ返事で通された、この人もどうやら姫崎さんの知り合いで「なぁなぁ彼氏? ええ人捕まえたやん」と姫崎さんを揶揄っていた。
「副署長、姫崎さんをお連れしました」
「おう、ありがとうな! すまないがこれで温かいお茶と中華まんでも買って来てくれないか?」
そう言って朗らかな笑みを浮かべた副署長が北里さんを3人出す。
「はい! 行ってきます」
「もう一人も一緒に行くんだぞ~!」
そして少しの後エンジンの音が遠ざかって行った。