第56話:厄介事の予感。
通し矢が終わり日が落ちた境内で、七条家の皆さんが片づけをしている。
「いやぁ、ご両人。今日は感謝するぞ」
ポンポンと俺の方を叩く幻斎さん。結果から言うと、通し矢は冬華に軍配が上がった。
「いえいえ、こちらも春華と冬華へ、二人のお爺さんの刀譲っていただきありがとうございます」
「何を言うか、こちらとしても心残りじゃったのでな。それより錬司の刀をダシにしたみたいで悪かったのぅ」
「いえいえ、おれも貴重な経験をさせて貰いました」
「私も! 優希おにーさんに勝てて満足です!」
「あはは、流石に3本同時撃ち、それを2連射は無理だったよ……」
外されつつ片付け最中の的を見る、そこには見事に十字に刺さる矢と的を外れ土壁に刺さる矢があった。
敗因としては俺と冬華の指の細さである。矢を握り込んだ際、冬華の方が指が細いので矢同士の間隔が狭い、その開きで発射された矢は、的に到達する際に大きく開いているのだ。
「しかし、流石優希殿とその伴侶じゃな、素晴らしい腕前じゃったのう」
「えへへ~どやぁ~」
「あはは……俺は普段、魔法で補助してますので。純粋な弓の腕なら冬華のが上ですからね」
弓使う時はそこまで無いし、使うにしても戦場だと冬華やメアリーの射撃がフォローに入るからなぁ。
「いやいや、お主目が凄く良いじゃろ、人の技術を見て盗むことができる位に」
ニヤリと笑い、俺を見る幻斎さん。図星を突かれて声が詰まる。
「あはは……目が良いのはよく言われます。でも、流石冬華だね、あれだけの集中力すごいや」
「えへへ~」
褒められて喜ぶ冬華、結構平然としているが火照っているのだろうじっとりと汗が額に浮き出初めている。
「ほら、タオル」
「ありがと~優希おにーさん」
軽く汗をぬぐいながら、顔を上げる。
「でも耐久勝負だったり、何枚も板や的を撃ち抜くとかなら絶対勝てなかったもん」
「まぁ、男子だし、そこで負けたくは無いよ」
そんな事なら魔力込めたパワーショットするだろうし。
「それに、冬華の得意分野は技巧と精度なんだし、威力は矢の方で補ってるしな」
風と火魔法で冬華を冷やしながら服も乾かしていく。
「そうだねぇ~あぁ~風がきもちいぃ~」
話していると、唐突にスマホへ着信が来た。
「すみません、少し外しますね」
「あぁ」
「いってらっしゃーい」
二人から離れ通話ボタンを押す。
「はい、どうしました綴さん?」
「ねぇ優希君、少し変な事を聞きたいのだけれど、今時間はある?」
電話の主は綴さんで、困惑した声をしている。
「はい、大丈夫ですよ、そこまで長い話でなければ」
「ありがとう。それでね、優希君の友達に『天照大御神』って居ないかしら?」
「…………へ?」
「『天照大御神』わかる?」
「え、えぇ。わかりますよ、神様の名前ですよね?」
日本神話の神様とかって実在はしないでしょ……それに知ってる神様って理映と運命神様と大神様だし、まさか運命神様か大神様が天照大御神なのかな、でも女性神だしなぁ……。
「その『天照大御神』が優希君の名前を出しているそうなの……。その、泣きながら……」
「えぇ……それでそのアマテラスさんは何か周囲に影響を及ぼしたり、危険な事をしてるんですか?」
「いえ、今は伊勢神宮……自社本庁の方で保護をしているわ」
「そうなんですね」
凄い厄介事の予感が……。
でも、理映の関係者だろうし、ほったらかして理映の評価を下げるのも悪いしな。
「わかりました、明日向かいます……場所は伊勢神宮で良いんですか?」
「えぇ、明日の朝には合流できそうだし、お願いするわね」
「わかりました、無理しないで下さいね」
「うぅ……優希君優しい……あのクソ上司達とはちがうわね……」
「あはは……そろそろ皆が待ってるし、戻りますね」
「はっ……そうね。じゃあ明日!」
そう言って通話が切れた。
「とりあえず、耀達に報告と相談して、残りの観光も楽しみますか!」
◇◆◇◆
それから戻り皆と合流する、幻斎さんにお礼を言って観光に戻る。ここからは夜の京都を楽しむコースだ。
「わぁ……綺麗ねぇ!」
「そうだな、これは幻想的だ」
「ん、綺麗」
「はわぁ~」
感嘆の声を上げるエアリス達リーベルンシュタイン組、淡い光に照らされる数多並んだ鳥居、その中をゆっくりと歩く。
やって来たのは伏見稲荷大社。ここは千本鳥居のライトアップで有名な所、まぁ期間限定なのだが、先程一条さんから連絡があり、特別に準備してくれたとの事だ。
「でも、ここって普段はこの吊り灯篭だけみたいなのです」
「へぇ……そうなんだ……」
ん? このつい最近よく聞いてた声は?
「あれ? 結菜?」
「私も居ますのよ?」
「心愛も!?」
「ふひっ……私も居ます……」
「依与里まで……と言う事は……」
「悠真さんは実家に帰省中ですわ」
「あ、そうなんだ……ってどうして?」
「一条さんから『今日は特別に伏見稲荷でライトアップするからクラスメイトを誘って来ると良いよ』と連絡がありまして。残ってるクラスメイトの皆さんと来たんです」
結菜が指をさすと実家に一時帰省してないクラスメイトの集団があり、皆手を振っている。
「優希、その子達は?」
優羽達と先に行っていた耀達が戻って来ていた。